お薬と病気のなるほどライブラリ
病気についてのおはなし
認知症について
その“物忘れ”「歳のせい」だと思っていませんか?
認知症の初期症状として知られている物忘れ。しかし、加齢により誰にでも起こり得る物忘れとは違います。
食事のあとに、「何を食べたか思い出せない」という状態。
これは、出来事の一部を忘れてしまうにとどまります。
食事をしても、食事をしたこと自体を忘れてしまいます。
そのため「ごはんはまだ?」と何度も催促してしまうことがあります。
この1〜2年間で、同じことを何度も言ったり聞いたりする、物を置き忘れたりする、人の名前が思い出せないなどの変化がみられる場合には認知症の可能性が考えられます。
認知症とは?
認知症とは「脳や身体の疾患により記憶・判断力などに障害が起こり、日常生活に支障をきたす状態」とされています。
認知症の診断と治療
本人や家族への問診、知能テスト、画像診断、血液検査などの結果を総合的にみて、診断がされます。日々の生活の様子や、いつ頃から症状が出始めたか…などの情報も診断の際に必要となりますので必ずご家族の方と一緒に病院に行くようにします。
ご本人もしくはご家族の方で、「もしかしたら認知症かもしれない」と思い当たることがありましたら、早めに医師に相談しましょう。
かかりつけの病院で気になることを相談するのもよいでしょう。
「もの忘れ外来」など認知症を専門に診察する医師もいます。
現在ではまだ認知症を治すことはできませんが、治療やケアにより症状の進行を軽くしたり遅らせることができます。また、早めに治療を開始するほど、治療効果が高いことがわかっています。
認知症の治療においては、早期からの適切な治療が大切です。
認知症における治療の目標は、症状の進行を遅らせて患者さんのQOLを維持することです。ご家族や介護者は、治療は病気を治すものではないことを理解したうえで患者さんの治療に対する意欲を導き出すことが重要です。
認知症の代表的な検査
認知症の診断におけるスクリーニング検査 |
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◯ ミニマルステート検査(MMSE: Mini Mental State Examination) |
◯ 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R) |
軽度認知障害(MCI)を疑う場合の検査 |
MMSEは軽症例、病前能力の高い場合、視空間認知障害を主症状とする場合には感度が低く、一方、軽度でも言語障害のある場合には低得点になる。 |
◯ MoCA-J (Montreal Cognitive Assessment-Japanese version) |
◯ ACE-R (Addenbrooke's Cognitive Examination-Revised) |
いずれの評価法利用の場合においてもカットオフ値のみで判断するのではなく、病前に比べての変化を的確に捉えることが重要です。
病前の能力や診察の際の心身の状態などを十分に考慮しましょう。
日常生活で気を付けたいこと〜患者編〜
物忘れによる不安・混乱を少しでも減らせるような習慣を心がけましょう。
おいしく、楽しく食事をとるように心がけましょう。
ものがうまく飲み込めない誤嚥に注意しましょう。
また、他の病気の治療で食事制限が必要な場合は医師の指示に従ってください。
認知症になったからといって今までの生活が急にできなくなるわけではありません。前向きに考え自分らしい生活を続けることが大切です。
日常生活で気を付けたいこと〜ご家族・介護者編〜
ご家族や介護者が何でもしてあげるという状態は、患者さんの心身の機能がどんどん低下してしまいます。
自立した生活は自尊心を保つうえでも大切ですから、できることはサポートするだけにとどめ、見守ることを心がけましょう。
認知症では、否定や注意をすることは怒りの引き金にもなり逆効果となってしまいます。
患者ご本人の気持ちに理解を示し、認めてあげるなど受け入れることを心がけましょう。
認知症が進行すると、適切な意思表示が難しくなるため、ご家族や介護者が患者さんの健康状態に気をつける必要があります。
また、注意力や判断力も低下するため、日々の暮らしの中で危険なものがないか見直しましょう。
こんなときは?認知症における対応のポイント〜ご家族・介護者編〜
認知症の症状である「物忘れ」によるものですので、患者さんへの訂正や説得は期待できません。逆にこれを上手に利用し、関心を別のものに向かわせたり、話題や状況を変えてみましょう。
認知症と診断された患者様のご家族の方へ
日々の介護の中で、患者さんができなくなる、わからなくなる様子を見ているのは大変つらいことだと思います。
そんな時は少し視点を変えて、まだできること、わかることに目を向け、それが少しでも長くできるようにと気持ちを切り替えて前向きに考えましょう。
いつまで続くのか先が見えない介護は、介護者に相当な負担がかかります。少し休息を取りたくなった時、少し離れた方がよい時にはどうすればいいのか…。ストレスや悩みを一人で抱え込まずに、患者さんの症状が軽いうちから家族などと相談しておくことが大切です。
ご家族や周りの人達に相談・協力してもらうことはもちろん、国や地域のサポートシステムを利用することも大切です。福祉介護システム等について早い時期から調べておきましょう。
公園前薬局(東京都)薬剤師 堀 美智子 先生