気持ちが疲れていませんか?

すべてのおかあさんが赤ちゃんをかわいく思い、毎日元気に完璧な育児をしているのではありません。 休みのない予測不能な子育てが続き、なんとなく元気がでないなと思っていたら、実は「うつのなりはじめ」だったということもあります。自分の声に耳をかたむけ、自分らしい子育てを行いながら、健やかな毎日を過ごしましょう。

こころが落ち着かないのはあなただけじゃない

おなかの中に新しいいのちを授かると、うれしく幸せな気持ちを感じる一方で、胎児への影響など心配ごとが増え緊張状態が続くようになります。その後の出産はからだだけでなく、こころにも大きな影響を与えます。出産後の育児は、赤ちゃんが泣き止まない、ミルクを飲んでくれないなど想像とは異なる子育てに、おかあさんは睡眠が十分にとれず、食欲が落ち、元気がなくなることも。そうなると、おかあさん本来の力が発揮できないので子育てが思うようにいかず、より苦しいと感じることもあります。
そして自分を責める気持ちが強くなると「ダメな母親なのではないか」と不安になったり、自信を失うことにつながってしまいます。なんとなくこころが落ち着かないな、疲れているのかなと思うようになったら、少し休んで、自分のこころの声に耳をかたむけてみませんか?

「マタニティーブルーかな」と感じたら……

分娩直後から産後7~10日以内にみられる、不安、疲労感、不眠などは、マタニティーブルーの症状で、15~35%の方が経験します。通常は1~2週間で自然と治まります。症状がそれ以上続く場合には、うつの可能性もあります。気持ちが切り替わらない状態が続く場合には、主治医や助産師に相談してみましょう。

うつは誰でもなるもの

誰もがなり得る「うつ」

うつ病の生涯有病率は、男性で12.7%、女性では21.3%と約2倍とされています。これは女性の約5人に1人が一生のうち一度は、うつ病になることを示しています。妊娠中や産後はとりわけよく起こることがわかっていますが、女性の社会進出などライフスタイルの変化に伴い、妊娠前からメンタルヘルスの問題をかかえている人も少なくありません。うつになっても決して、母親失格ということではありません。誰でもなるもの。そう思って自分自身としっかり向き合ってみましょう。

周産期うつ病

妊娠中のうつ

妊娠1~4か月の初期に起こりやすく、約10%の妊婦さんにみられます。ほとんどの方は自然と軽快していきます。

<症状>

  • すぐにイライラしてしまう
  • 涙もろくなる
  • 寝つきが悪くなる
  • 体がだるく感じる
産後のうつ

産後はうつ病を発症しやすく、約10~15%にみられるようになります。さまざまな症状がみられますが気持ちの落ち込んだ状態が続き、赤ちゃんへの心配ごとにもつながります。

<症状>

  • 何をしても「楽しい」と感じない
  • 物ごとに対する興味がなくなる
  • 赤ちゃんへの愛情を実感できないと感じる
  • 赤ちゃんのお世話ができないと感じる

おかあさんのこころとからだに起きること

出産を終えた後、エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンが急激に変化して自律神経に大きな影響を与えます。これにより「こころのバランス」が乱れてしまうのです。「こころが不調」になると、自分自身や状況を悪くとらえる傾向が強くなります。「子育てに自信がもてない」「待ち望んでいた赤ちゃんなのに、なぜか子育てが面倒だ」と感じ、「自分はダメな母親だ」といった自分を責める気持ちが起きてしまうことも。すると「母なら、あれもこれもやらねばならない」と考え、ますます無理な計画を立てたり、「育児は私がやらねばならない」「私さえがまんすれば」とひとりでかかえ込むなど、悪循環が生じます。

こころを落ち着かせる、はじめの一歩

周産期うつは早期に発見し、ケアすることが大切です。

自分のSOSを見逃さない

  • 疲れやすい
  • 眠れない
  • やる気が起きない

これらの症状は、通常の産後のおかあさんも感じることです。単なる疲れや寝不足ですませてしまうことも多くあります。状態が悪化する前に、睡眠など自分の時間を確保するために家族や各種サービス機関などに相談するのもよいでしょう。

自分の状態を知ってもらい、助けを求める

周囲のサポートによっても軽快していきます。「一番つらいと感じているものは何か」「どうサポートしてもらいたいか」など、自分自身の状態を周囲に知ってもらいましょう。そしてときにはサポートを求めてみましょう。

家族のみなさんへ

おかあさんは24時間休む間もなく、赤ちゃんのお世話をしています。おかあさんは、最近笑っていますか?ふとしたときに涙を流していないですか?おかあさんのSOSに気づけるのは、皆さんです。おかあさんのちょっとした変化を見逃さず、気にかけてあげてくださいね。

Questionnaire −質問票−

「なんだか疲れたな」と思ったときに、自分の声に耳をかたむけてみましょう。

A1. チェックの数が少ない方

落ち着いたこころの状態で、子育てができているようです。がんばりすぎず、今のペースで落ち着いて過ごしていきましょう。

A2. チェックの数が多い方

日々の疲れが溜まり、こころにも疲れがあるかもしれません。チェックの数が多いことを心配しなくても大丈夫です。今のおかあさんと赤ちゃんの状況をメモ帳やノート、スマートフォンのメモなどに書き出してみましょう。

赤ちゃんが生まれた後は、おかあさんを頼るしかない「赤ちゃんの声」ばかりを聴きがちです。また2人きりの時間が増えると、孤独や不安を感じることも多くなるかもしれません。慣れない子育てが続き、気持ちの変化は起こりやすくなっています。なんだか疲れたなと思ったときには、「自分の声」にも耳をかたむけてみましょう。自分の声を自分でよく聴くことが、赤ちゃんにとってもおかあさんにとってもよい状態を生み出します。

自分のこころと向き合おう

自分のこころを定期的にみつめるのはとてもいいこと。毎日は大変かもしれませんが、こころの声にこまめに耳をかたむけることで「不調」に気づきやすくなります。

書くことで、頭を整理する

おかあさん自身の行動や気持ちを書いてみましょう。あたまとこころにたまった考えやもやもやを吐き出すことができます。また、何をどうしたいか、どうしてほしいかが具体的な言葉になり、家族や周囲の人に伝えやすくなります。

Perinatal Diary(周産期日記)を書くときの約束

今感じていることを思うがままにメモ帳やノート、スマートフォンのメモなどに書き出してみましょう。

ダメ出しをしない

書いた後に「こんな自分はだめだ」と自分のことを責めたり、自分自身を否定しないであげてください。

定期的にみつめてみよう

自分の気持ちを客観的にみることができ、本当の自分の気持ちに気づきやすくなります。そして定期的に書くことで、小さな変化にも気づけるようになります。

家族や周囲の皆さんができること

「妊娠・出産や子育てが大変なのはあたりまえ」と考えるときはありませんか?
無意識に、おかあさんの苦しみを軽くとらえてしまうことにつながります。おかあさん自身すら「調子が悪いのは自分が悪い」と思い込んでしまうことが多いもの。一番大切なことは、家族や周囲の皆さんの理解と協力。つまり皆さんのサポートが必要なのです。

おかあさんの言葉や表情を見逃さない

  • ぼんやりとしている
  • 気持ちの切り替えができていない
  • なんでもないことで涙ぐむ
  • 目をあわせない

なんとなくいつもと違うことがあれば、声をかけてみましょう。おかあさんの気持ちがわかるのは、きっとおかあさんだけです。それでも、おかあさんの話に耳をかたむけてみてください。それがおかあさんと赤ちゃんにもよい影響を与えるでしょう。

妊娠~出産、子育て―おかあさんはずっと緊張感をもってがんばっています。こころもからだもギリギリの状態です。赤ちゃんが寝ていてもそばにいると、緊張が続きます。おかあさんが赤ちゃんと離れてゆっくりと落ち着いて過ごせる時間を、短くてもいいのでつくってあげてください。「赤ちゃんはみんなで育てる」という気持ちをもって、赤ちゃんがいる新しい生活に慣れていきましょう。

こころの健康のために一緒にやってみましょう

話をしてみよう

感じていること思っていることを話してみましょう。家族や友人に話せないときには、新生児訪問や産後健診のときに保健師や医師に話してみてください。話すだけでも安心した気分になります。

運動をしよう

赤ちゃんと一緒に外に出て、散歩をするだけでも気分が変わることがありますよ。外に出られないときには、おうちの中で音楽を聴きながら少しでも体を動かしてみましょう。

地域の活動に参加しよう

各自治体では妊産婦のためのイベントやセミナーを開催しています。気持ちは乗らないかもしれませんが、同じようなおかあさんがたくさんいます。気持ちをわかちあうこともできるので、無理のない範囲で参加してみましょう。

受診への抵抗感をなくし、はじめの一歩を踏み出そう

おかあさんの強い不安は、赤ちゃんへも影響を及ぼしかねません。専門医による適切な治療を受けることは、おかあさんと赤ちゃんの双方にとってとても重要です。

どこに行ったらいいの?

一般内科、心療内科、精神科あるいは婦人科で診察を受けることができます。特にメンタルの問題から月経異常など、からだに症状がでることも多いため一般内科や婦人科が最初の窓口になることもあります。赤ちゃんの健診時に医師に相談することもできます。
また自治体によっては、産婦人科と精神科が連携しています。保健師に相談すると紹介してもらえることもありますので、まずは自分が相談しやすい、踏み出しやすいところを見つけてみましょう。

よくある不安と心配

「妊娠中や授乳中に薬などの治療を受けると、赤ちゃんに悪影響が起きてしまう」と心配になり、受診をためらいがちです。「うつ」の治療に使われる薬には、複数の種類があります。授乳中に服用できる薬もありますので、授乳中である旨を医師もしくは薬剤師に相談してみてください。
また薬を使わない対話療法など心理学的療法もあります。治療を受けなくても心の状態がよくなる場合もありますので、抵抗感をなくしてまずは一歩踏み出してみましょう。話を聞いてくれる人がいるだけでも気分やこころが変わることがあります。

じぶんセラピー

1. 家族と話し、アウトソーシングを利用してみたAさん

家族と話しあい、週1回ベビーシッターに来てもらうことにした。美容院に行ったり、外食をしたり気分転換の時間をつくることができた。ベビーシッターに子育ての相談もできて、育児を楽しいと感じられるようになった。

2. 心療内科を受診してみたBさん

子どもがイヤイヤ期に入り、気持ちが荒れることが多くなったので心療内科を受診した。
お医者さんに話を聞いてもらうことで、心が軽くなった。漢方薬は徐々に効き始めた。子どもに優しく接することが増えた気がする。

赤ちゃんのお世話を24時間し続けることはとても大変なことです。完璧でなくていい。 がんばらず、何もやらない日があってもいい。どうしても怒りたい、泣きたいときがあってもいいのではないでしょうか。おかあさんが元気で笑っていることが、赤ちゃんにとって何よりうれしいことです。あきらめることも妥協することも、ときにはわがままをいうことがあってもいいんです。赤ちゃんと、なによりおかあさん自身のために、不安や心配をそのままにせず、「自分の声」にしっかりと耳をかたむけてください。周囲の家族や友人、医師あるいは医療スタッフに「こころの不調」について、ぜひ相談してみてください。

周産期は、ストレス耐性が低く出産や育児のストレスに他の要因が加わることにより、うつ病、うつ状態になりやすくなります。しかし、実際に受診される方はその一部であり、大多数はつらい状態をかかえたままになっていると思われます。この冊子を用いることにより、ご自身の今の状態を知り、必要ならば早期に受診されて治療されると、母子ともに安定した周産期を送ることにつながると思います。

医療法人社団 双和会 志津クリニック 院長 志津 雄一郎

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