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病気についてのおはなし
脂質異常症について
脂質異常症とは?
中性脂肪やコレステロールなど、血液中の脂質の値が基準値から外れた状態を指します。 脂質異常症は動脈硬化の主要な危険因子であり、放置すると脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患をまねく原因となります。
参考:厚生労働省 e-ヘルスネット 脂質異常症(2022年7月現在)
(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-004.html)
こんな食生活をしていませんか?(1)
エネルギーの過剰摂取
体重増加や肥満が進行し、その結果として脂質異常症のリスクが上昇します。
脂質が多い食事
脂質が多いと、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂り過ぎになる可能性があります。飽和脂肪酸は、常温で固まる脂、肉の脂身、バター、加工食品などに多く含まれます。トランス脂肪酸は、天然の食品中に含まれているものと、油脂の加工・精製工程で、油を液体から固体にするための水素添加によってできるものがあります。
トランス脂肪酸は摂り過ぎると、冠動脈性心疾患のリスクが高まることが報告されており、トランス脂肪酸の摂取量は総摂取エネルギー量の1%相当以下、できるだけ少なくすることが望ましいとされています。
※現在、国内の食品メーカーがトランス脂肪酸の低減に取り組んでおり、従来品に比べトランス脂肪酸の含有量が少ない製品も多数出ています。
コレステロールが多い食事
コレステロールが多い食品を食べ過ぎると、血液中のコレステロール値が上昇します。
しかし、コレステロールを気にして肉や卵をまったく摂らないと、栄養バランスを崩してしまいます。健やかな食生活を送るためには、同じものばかりを食べるのではなく、いろいろな食品をバランスよく食べることが重要です。
参考:農林水産省 食品中の脂質とトランス脂肪酸濃度(2022年7月現在)
(https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_kihon/content.html)
こんな食生活をしていませんか?(2)
※n-(オメガ)は、不飽和脂肪酸の中にある二重結合がどの位置にあるかを指しています。
最近の食事はn-6系に偏りすぎと言われています。n-3系を積極的に摂りましょう。
横にスクロールします。
脂肪酸の種類 | 多く含む食品など | 食事摂取基準など | ||
---|---|---|---|---|
飽和脂肪酸 | 動物性脂肪 (乳製品、肉など) 植物油脂 (パーム油など) |
目標量の 上限が設定 |
||
主な不飽和脂肪酸 | n-9系 | オレイン酸 | 植物油 (オリーブ油など) 動物性脂肪 |
設定なし 必須脂肪酸 ではない |
n-3系 | α-リノレン酸 | 植物油 (エゴマなど) |
目安量が設定 必須脂肪酸 |
|
エイコサペンタエン酸 (EPA) |
魚介類 | |||
ドコサヘキサエン酸 (DHA) |
魚介類 | |||
n-6系 | リノール酸 (γ-リノレン酸、アラキドン酸は リノール酸の代謝物) |
植物油 (大豆油や コーン油など) |
目安量が設定 必須脂肪酸 |
参考:厚生労働省 e-ヘルスネット 不飽和脂肪酸(2022年7月現在)
(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-031.html)
農林水産省 脂質による健康影響(2022年7月現在)
(https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_eikyou/fat_eikyou.html)
脂質異常症の診断基準
日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」では、以下のような基準が示されています。
脂質異常症診断基準(空腹時採血)*
横にスクロールします。
LDLコレステロール | 140mg/dL以上 | 高LDLコレステロール血症 |
---|---|---|
120〜139mg/dL | 境界域高LDLコレステロール血症** | |
HDLコレステロール | 40mg/dL未満 | 低HDLコレステロール血症 |
トリグリセライド | 150mg/dL以上(空腹時採血*) | 高トリグリセライド血症 |
175mg/dL以上(随時採血*) | ||
Non-HDLコレステロール | 170mg/dL以上 | 高non-HDLコレステロール血症 |
150〜169mg/dL | 境界域高non-HDLコレステロール血症** |
* 基本的に10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。空腹時であることが確認できない場合を「随時」とする。
** スクリーニングで境界域高L D L - C 血症、境界域高non-HDL-C血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。
● LDL-CはFriedewald式(TC-HDL-C-TG/5)で計算する(ただし空腹時採血の場合のみ)。または直接法で求める。
● TGが400mg/dL以上や随時採血の場合はnon-HDL-C(=TC-HDL-C)かLDL-C直接法を使用する。ただしスクリーニングでnon-HDL-Cを用いる時は、高TG血症を伴わない場合はLDL-Cとの差が+30mg/dLより小さくなる可能性を念頭においてリスクを評価する。
● TGの基準値は空腹時採血と随時採血により異なる。
● HDL-Cは単独では薬物介入の対象とはならない。
一般社団法人日本動脈硬化学会 編:動脈硬化性疾患予防ガイドライン
2022年版, p. 22, 一般社団法人日本動脈硬化学会, 東京, 2022.
参考:厚生労働省研究班(東京大学医学部藤井班)監修:女性の健康推進室 ヘルスケアラボ 女性および高齢者の脂質異常症(2022年7月現在)(https://w-health.jp/old_age/dyslipidemia/)
脂質異常症によるリスク
脂質異常症は動脈硬化の危険因子です
脂質異常症そのものには自覚症状はありませんが、そのままにしておくと血液が血管内でとどこおる動脈硬化を引き起こすことがあります。動脈硬化が進行すると、脳卒中や虚血性心疾患など、「動脈硬化疾患」とよばれるさまざまな病気が現れることがあります。
中性脂肪の増加は、肥満とともに血管を内側から傷つける原因となります。さらに、中性脂肪が非常に高い状態が続くと、急性膵炎を発症することが知られています。また、糖尿病の合併も起こしやすく、肝臓の細胞内に中性脂肪がたまる脂肪肝にもつながります。
古くなったLDLコレステロールは活性酸素に酸化されて小型になり、血管内皮にもぐりこんで蓄積し動脈硬化をすすめることになります。そのため「超悪玉コレステロール」と呼ばれています。
脂質異常症の予防と治療(1)
脂質異常症の予防や治療の基本は、食生活をはじめとする生活習慣を改善することです。
リスク区分別脂質管理目標値
横にスクロールします。
治療方針の原則 | 管理区分 | 脂質管理目標値(mg/dL) | |||
LDL-C | Non- HDL-C |
TG | HDL-C | ||
一次予防 まず生活習慣の改善を 行った後薬物療法の 適用を考慮する |
低リスク | <160 | <190 | <150 (空腹時)*** <175 (随時)*** |
≧40 |
中リスク | <140 | <170 | |||
高リスク | <120 <100* |
<150 <130* |
|||
二次予防 生活習慣の是正とともに 薬物治療を考慮する |
冠動脈疾患またはアテローム 血栓性脳梗塞(明らかな アテローム****を伴うその 他の脳梗塞を含む)の既往 |
<100 <70** |
<130 <100** |
LDL-C:LDLコレステロール、Non-HDL-C:Non-HDLコレステロール、TG:トリグリセライド、
HDL-C:HDLコレステロール
●* 糖尿病において、PAD、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合に考慮する。(第3章5.2参照)
●** 「 急性冠症候群」、「家族性高コレステロール血症」、「糖尿病」、「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞(明らかなアテロームを伴うその他の脳梗塞を含む)」の4病態のいずれかを合併する場合に考慮する。
● 一次予防における管理目標達成の手段は非薬物療法が基本であるが、いずれの管理区分においてもLDL-Cが180mg/dL以上の場合は薬物治療を考慮する。家族性高コレステロール血症の可能性も念頭に置いておく。(第4章参照)
● まずLDL-Cの管理目標値を達成し、次にnon-HDL-Cの達成を目指す。LDL-Cの管理目標を達成してもnon-HDL-Cが高い場合は高TG血症を伴うことが多く、その管理が重要となる。低HDL-Cについては基本的には生活習慣の改善で対処すべきである。
● これらの値はあくまでも到達努力目標であり、一次予防(低・中リスク)においてはLDL-C低下率20~30%も目標値としてなり得る。
●*** 10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。それ以外の条件を「随時」とする。
●**** 頭蓋内外動脈の50%以上の狭窄、または弓部大動脈粥腫(最大肥厚4mm以上)
● 高齢者については第7章を参照。
一般社団法人日本動脈硬化学会 編:
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版, p. 71, 一般社団法人日本動脈硬化学会, 東京, 2022.
横にスクロールします。
脂質の種類 | 現在の値(mg/dL) | 目標値(mg/dL) |
---|---|---|
LDL-C |
||
Non-HDL-C | ||
TG | ||
HDL-C |
目標値は、年齢や性別、心筋梗塞などの既往や合併症の
有無などによって異なります。
主治医と相談して目標値を決めましょう。
脂質異常症の予防と治療(2)
生活習慣の改善
適正体重を維持しましょう
肥満傾向が認められる場合には、まず減量で標準体重を目指しましょう。
食べ過ぎに注意してバランスのよい食生活を心がけましょう
バランスのとれた食事を心がけ、1日3食きちんと正しく食べましょう。また、食べ過ぎにも注意し、腹八分目を意識することも大切です。
食材・食品選びのポイント
- 野菜、果物
(抗酸化作用を持ち、ポリフェノールを含む) - イワシ、サンマなどの青魚や、サケ、タラなど
(EPAやDHAといったn-3系多価不飽和脂肪酸を含む) - きのこ、豆類、海藻など食物繊維を含むもの
- オリーブオイル
(悪玉(LDL)コレステロールを減らす) - 大豆製品
(血清脂質値を下げたり、動脈硬化を抑制する)
参考:厚生労働省 e-ヘルスネット 脂質異常症(実践・応用)(2022年7月現在) (https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-013.html)
お酒の飲み過ぎに注意しましょう
アルコールの過剰摂取は肝臓内でのトリグリセライドの合成を増加させます。
脂質異常症の予防と治療(3)
禁煙をしましょう
喫煙は動脈硬化疾患の危険因子です。禁煙とともに、受動喫煙も回避するようにしましょう。
適度な運動を習慣づけましょう
日頃から定期的な運動を心がけることが大切です。適度な運動はストレスの発散や良質な睡眠を促し、食事療法とともに脂質異常症治療の基本となりますので継続して行うことが重要です。
治療中の病気がある場合は、どのような運動療法が可能か医師と相談をしてから開始しましょう
理想的な有酸素運動 ※くれぐれも無理は禁物です。
・1日30分程度(1週間合計180分以上)
・心拍数110~120/分程度(少し負荷があるが継続できる程度)
参考:厚生労働省 e-ヘルスネット 脂質異常症を改善するための運動(2022年7月現在)(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-05-003.html)
脂質異常症の予防と治療(4)
薬物療法
食事療法、運動療法などで生活習慣を見直しても改善がみられない場合、お薬での治療が必要になります。薬物療法の開始にあたっては、LDLコレステロールや中性脂肪の値以外にも年齢や性別、危険因子の数、高血圧や糖尿病等の合併症の有無などが確認されたうえで、お薬が決定されます。また、副作用が見られることもあるので、薬を服用して「いつもと違う、おかしいな」などと感じることがあれば、医師・薬剤師に相談の上、指示に従いましょう。
公園前薬局(東京都)薬剤師 堀 美智子 先生