「私たちにできること」を考え続ける
地域住民の健康を担う“健康ステーション”
平成4年(1992年)に1つの薬局からはじまった株式会社平成調剤薬局。開業当時から貫かれている行動指針は、「依頼されたことを断らず、とにかくやってみること」。この指針をもとに、調剤薬局としてだけではなくさまざまな視点から地域住民の健康に関わっています。
「絶対に断らない姿勢を持ち続け、私たちにできることを常に考えてきました。何かに迷ったときには、お客様のためになるか、社員が喜ぶことかを大切にしています」と語るのは代表取締役社長の大橋哲也さん。会社として特に大きなターニングポイントとなったのは、平成24年(2012年)に開業したサービス付き高齢者向け住宅だといいます。
「介護って何だろうと皆不安に感じていましたが、介護士や看護師、理学療法士など他職種との関わりを通して、薬の大切さや生活に寄り添うことの重要性が見えてくるきっかけとなりました」と専務取締役の大橋千加さんは話します。
地域住民の「人生の選択肢を増やす」のが使命
現在では、調剤薬局、サービス付き高齢者向け住宅に加え、訪問看護ステーションや企業主導型保育施設、総合型健康館、薬膳カフェと、年齢や疾患の有無にかかわらず、すべての地域住民の健康を担う“健康ステーション”になっています。
「困っている人がいるなら助ける。私たちに何かできることがあるならやってみる。そのように思っています。職員にやりたいと言われた取組みについては、一切断らないようにしています」(大橋千加さん)。
その言葉のとおり、“在宅医療”という言葉が浸透する前から薬剤師による在宅訪問を始めたり、学校薬剤師の活動を行ったり、「ココカラフェスティバル」という健康イベントを開催したりするなど、平成調剤薬局の活動は薬局を飛び出し多岐にわたります。その背景には「地域住民の人生の選択肢を増やしたい」という薬剤師の強い思いがあるといいます。
「患者様や利用者様、地域の方々の『自分の人生をこうしていきたい』という思いを叶えるためには、私たちが人生の選択肢を増やしていかなければなりません。医療者側から『こうしてください』と指定するのではなく、それぞれが選択肢の中から選択して、安心して過ごしていただけるようにするのが私たちの使命です」と話す薬剤師の武山則行さん。武山さんは薬剤師として「患者様とその家族の立場に立ち、薬以外のことも踏まえながら行動する」ことを大切にしています。
そんな武山さんの思いを叶えるかのように、薬局内には薬膳食材や健康食品、サプリメントのほか、訪れた方が健康をセルフチェックできる肌年齢計や血管年齢計なども並び、処方箋がなくても気軽に立ち寄ることのできるスポットとして親しまれています。
大きなやりがいが原動力に
生活に寄り添った医療を提供する在宅医療
「病院に入院する患者様は、なるべく早く自宅に戻りたいと思っていらっしゃいます。そのため、病院では治療が最優先になりますが、在宅では生活が中心になります。苦痛を伴うような生活は長くは続かないので、生活に寄り添った医療が提供できるような役割を担っていきたいです」と語るのは、ケアマネジャーとしても活動している薬剤師の岸邉美紀子さんです。
岸邉さんは、「在宅で関わった患者様が医師に話しづらいことを話してくれることがある」と語ります。特に心に残っているのは、利尿剤を使用されていた患者様のお話です。
「トイレの回数が多くて施設での入浴の際に困ってしまい、お薬を飲めていないというお話をしてくださったことがあります。週に2回の入浴だと伺ったので、入浴の日だけは利尿剤の量を減らすことを提案したら、きちんとお薬が飲めるようになり、治療も上手くいって体が楽になったとお話ししてくださいました。この経験から、在宅の薬物治療は患者様の生活を中心に見ていかないといけないと気づきました」(岸邉さん)。
平成調剤薬局では、全店舗で在宅訪問を実施しており、患者数は成人・小児をあわせて400名以上にも上ります。パート職員を含むほとんどすべての薬剤師が在宅医療に携わり、岐阜市内の全域をカバーするほどの規模となっていますが、職員の士気は高く、患者様と深く関わりたいという強い思いをもった薬剤師が集まっています。
「大変だと思われるかもしれませんが、実際にやってみると患者様に喜んでいただける部分が多くて、自分が役に立てていると実感するんです」(武山さん)。
また、岐阜市は薬薬連携や病診連携が進んでいる地域で、他職種との連携においてもさまざまな取組みやサポート体制が充実しているといわれています。
「病院薬剤師と薬局薬剤師が力をあわせてさまざまな取組みをしたり、いくつかの病院がプロトコルを用いた疑義照会の簡素化に取り組んだりと、連携を図るために力を入れています」(大橋哲也さん)。
熟練の技が必要な小児の調剤
平成調剤薬局が小児の在宅医療に挑戦したのは武山さんのもとに舞い込んできた相談がきっかけでした。現在では全店舗あわせて60名ほどの小児在宅患者を受け入れており、岐阜県内でもトップレベルの患者数を担っています。
「依頼があったので伺うようになりましたが、10年ほど前からは本格的に取り組みはじめました。当時は薬局がそこまで受け入れてくれるという認識もなかったですし、そこまで対応できる医師も多くはありませんでした。徐々に件数が増えてきて、上手く対応できるようになってきました」(武山さん)。
成人と比較して小児の調剤では、薬剤の種類が多いことやそれぞれの薬剤の量がとても少ないこと、成長段階であるために細かい調節を要することなどが大きな違いとしてあげられます。1件の調剤に2時間以上かかることもあり、調剤には熟練の技が必要です。そのため、平成調剤薬局では経験の浅い若手薬剤師にベテラン薬剤師がOJT形式で技術を教えるようにしています。
「賦形剤1つとっても、成人では一律に同じ乳糖を混ぜたり、一包化して混ぜたりということがありますが、小児に関しては粒子の大きさまで考えなければなりません。こういったことは学校では教わらず、若手薬剤師にとっては初めての経験なので、1つずつ丁寧に教えながら技術を習得してもらうようにしています」(岸邉さん)。
“人生をつくり上げていく”過程に関わる
「高齢の方の在宅医療では、“人生の最期の時期をどのように迎えていくか”に関わることが多いと思います。けれど、小児の在宅医療では子どもたちがこれから成長していく、“人生をつくり上げていく過程”に関わることになります。お父さんお母さんがいて、兄弟がいて、これから学校に行くようになって……という点が、やはり成人領域と比較して最も異なる点だと思います」(武山さん)。
在宅医療では、患者本人だけでなく家族との関わりも重要であるといわれますが、小児在宅医療では家族との信頼関係の構築が特に大きな意味をもちます。病気をもって生まれてきた子どもに対して、両親は自責の念を抱いてしまうことが少なくありません。岸邉さんはそんなご家族との関わりから、信頼関係構築の大切さを感じました。
「『病気をもって産んでしまった』と悩まれて、心療内科に通われているお母さんがいらっしゃいました。特に0歳児のお子さんだと、ミルクを何回もあげないといけないのに、お薬も何剤も投薬するので、とても大変なんです。そこで、『一緒にできるものは一緒にしましょうか』とお母さんにご提案したら、少し心を開いてくださったのか、いろいろなお話を聞かせていただけるようになりました。お子さんを預かってもらえるサービスなどを紹介して、お母さんもゆっくり休めるようになって、お子さんにも優しく接することができるようになりました。ご家族のサポートがとても大切なのだと、改めて感じるきっかけになりました」(岸邉さん)。
小児の在宅医療というと、細かい調整が必要だったり、時間がかかったりするイメージが強く、尻込みしてしまう方もいるかもしれません。しかし、患者様の人生を一緒につくり上げているという大きなやりがいが、現場の薬剤師の原動力になっています。
「すべての子どもたちが普通に生活できるようにしたい。小児在宅というと難しそうだと思われるかもしれませんが、決して特別なことではなくて、困っている人がいたら、手を伸ばしてみる気持ちが大切なのかなと思います」(武山さん)。
また、やりがいだけでなく、薬剤師としての成長にもつながると岸邉さんは話します。
「大人とは異なる薬剤の知識が必要になりますし、お子さんそれぞれの個人差も大きいです。薬剤師としてたくさんの知識を学ぶ機会にもなりますし、対人業務としてのスキルも向上すると思います。患者様のためになっているというやりがいはもちろんですが、自分の成長のためにもなっていると実感しています」(岸邉さん)。
“ゼロ”から“イチ”を生み出し続ける
これからも地域住民に選ばれる薬局へ
平成調剤薬局では、薬膳カフェの運営や12種類の薬膳茶の販売など、体の内側からのケアにも力を入れ、未病のうちから薬剤師が地域住民に関わることを目標としています。
2023年春には薬局の中に漢方と薬膳を使ったレストランを開業したり、薬局のDX化を進めたりと、さまざまな取組みに挑戦していきたいと語ります。
「未病のうちから“食”を通して健康の大切さを伝えていくためのレストランをオープンする予定です。また、オンライン服薬指導が業界で話題になっていますが、それを実際に体験できる場所をつくりたいとも思っています。すべて全自動で調剤できるような“薬剤師がいない薬局”や、ドローンの活用なども視野に入れています。“ゼロ”から“イチ”を生み出すのが好きなんですよね」(大橋千加さん)。
地域住民の健康を担う“健康ステーション”として活動し続けてきた平成調剤薬局。“ゼロ”から“イチ”を生み出し続ける薬局の中には、地域住民の人生のはじまりから最期まで、すべてに寄り添う薬剤師の姿がありました。今後も進化し続ける薬局と、開局当初から変わらない「患者様の役に立ちたい」という強い思いが岐阜市民の健康を支えていくのでしょう。
編集:学校法人 医学アカデミー