薬薬連携はどこまで進んでいるか
NIPRO

2018年11月掲載

vol.05

石川県 金沢市

キーワード
緩和ケア  在宅医療  ICT活用  後方支援
対談者
塩川 秀樹 先生

金沢赤十字病院 
薬剤部 調剤係長
緩和薬物療法認定薬剤師
枝廣茂樹 先生

下山田 博久 先生

とくひさ中央薬局
薬剤師(在宅訪問業務担当)
緩和薬物療法認定薬剤師
小林星太 先生

緩和ケア領域における現場の課題は?

枝廣:
課題の一つとして挙げられるのは、入院されている緩和ケア対象の患者さんをどのタイミングで在宅へ移行するか、判断が難しいことです。「自宅で療養したい」と願う患者さんに対して、病状にもよりますが、在宅での疼痛コントロールがどこまで可能か、またご家族の意向などが問題になります。現状は多くの患者さんが病院で亡くなられるのですが、患者さんの意向に沿う形で、できるだけ在宅に帰っていただきたい。そのためには緩和ケアを安心して任せられる在宅医療チームが増える必要があると思っています。
小林:
病院の医療従事者には、在宅医療の体制とともに現状を知っていただくことも重要だと考えています。自宅に帰るとストレスが軽減され、痛みが和らぐ人もいます。幼い子どもをもちながら、終末期のがんと診断されたお母さんは、子どもの入学式にも行きたいし、最期まで住み慣れた自宅で子どもと同じ布団で寝たい、学校の宿題をみてあげたいなどと願っている。余命1か月と宣告された父親は、自らが自宅で死にゆく姿を、成人した息子たちに見せたいと願っている。その思いがわかると退院時支援にもより積極的に関わっていただけるのではないでしょうか。無論、より多くの薬局薬剤師の知識と経験を高めることも大きな課題です。ある論文に掲載された医師を対象としたアンケートによると、緩和ケアで求められる疼痛コントロールや中心静脈栄養法への対応は不可という回答が多い一方で「専門家のアドバイスがあれば可能」という回答も少なくありませんでした。このことからも専門知識を持った薬剤師の役割は大きいと思います。

注目のICT活用を実践されたわけですが、その可能性についてご意見をお聞かせください。

小林:
今回私たちが活用したSNSは、教育的な薬薬連携には非常に有効なツールだと実感しています。SNSの活用において医療従事者同士のやりとりとは別に、家族の方がちょっとした疑問や気付きを投稿していただく場所を作り、医療従事者が回答することもできます。それは患者さんのリスク回避にはもちろんのこと、例えば小児患者のお母さんの大きな不安を軽減するのにも役立ちます。最近では、金沢市医師会が地域医療連携ネットワークシステムID-Linkを利用した「ハートネットホスピタル」を整備し、電子的診療情報のやりとりが可能になりました。職種別に閲覧範囲が限定されますが、保険薬局の薬剤師は検査値、過去の処方歴、診療情報書などが見られます。他にも様々な医療機関が登録しており、多職種連携に役立つネットワークシステムだと思います。
枝廣:
当院も「ハートネットホスピタル」に登録しており、電子カルテから立ち上げることができるようになりました。その可能性に期待していますが、実際に活用するためには、各医療機関の薬剤師にもっと周知する必要があるでしょう。一方で、SNSを使った教育支援や情報共有は、小林先生との取り組み以外にも、4~5年前から石川県を中心に在宅と緩和ケアに興味を持つ薬剤師のグループをつくり、LINEで情報交換を行っています。個人情報を伏せた上で質問をすると、認定薬剤師などが回答する仕組みです。運用当初は現場での対応に関する質問が多かったと思いますが、今は勉強会の案内などの情報交換が主になっています。
ハートネットホスピタル(金沢市医師会が提供する無料の在宅療養ICTサービス)患者個別のホーム画面

ハートネットホスピタル(金沢市医師会が提供する無料の在宅療養ICTサービス)
患者個別のホーム画面 ※金沢市医師会ホームページより