薬薬連携はどこまで進んでいるか
NIPRO

2015年8月掲載

vol.03

北海道 札幌市

キーワード
検査値  疑義照会  多段階方式  病診薬連携
対談者
井関 健 先生

北海道大学病院
薬剤部長
井関 健 先生

坂田祐樹 先生

あさみ薬局
主任薬剤師
坂田祐樹 先生

検査データ開示推進の意図と運用方法、また運用の実際についてお教えください。

井関:
当初、検査データを出すことによって、疑義照会が増えるのではないか、と懸念する医師もいましたが、私たちにその意図は全くありませんでしたし、結果的にも疑義照会の全体数は減少しています。私たちのねらいは、北大を中心とする近隣薬局のエリアまで、セーフティネットを張り、患者さんに安心していただくことです。さらに患者さんには、病院と薬局を一つの医療エリアとして捉え、その中でご自身も薬物治療に参加している、と認識していただきたいと思っています。この意図は医師にも理解してもらえるようになり、最初は検査値の開示を拒んでいた精神科においても、今では検査値を出せるようになっています。
運用は、A4版の処方箋の右側に検査データを記載し、その部分をミシン目で切り離せるようになっています。もし、患者さんが薬局に検査データを見せたくなければ、切り離して提出していただけるよう配慮したもので、その旨も説明しています。一方で、運用開始当初は、患者さんに対して、「切り取らないで見せていただくと、薬局側が、病態把握がしやすくなり、安心ですよ」というお話もさせていただきました。初期には、2割程度が切り取られていたようですが、徐々に減少してきています。
こうした情報開示については、「病名を出した方が早い」と言う意見もあるでしょうが、私は、「それは違う」と思っています。薬剤師の専門職たるゆえんは、薬に関わる情報を薬学的に分析して、その患者さんの病態を推測できることです。そこからアプローチすべきであって、病名から入ることはかえって疑義照会を増やすことになりかねません。


坂田:
病名が開示されていなくても、処方医がどの診療科の誰なのかがわかり、検査値が出ていれば、問題ありませんね。最近では、「検査値について説明して欲しい」と聞いてくださる患者さんが増えてきました。それをきっかけに介入が可能になるケースもあります。これまで薬の説明だけだったのが、治療効果や副作用のチェックができるようになり、そのことを患者さんにも評価していただいていると感じています。例えば、私たちが腎機能に関する検査値をみて適正用量算出のための計算をしている姿を見ると、患者さんは、私たちをより医療従事者として認識するようになるのではないでしょうか。

検査値付き処方箋

広域の薬薬連携について、どのようにお考えですか。

井関:
今、私たちが取り組んでいるのは、急性期病院とその処方を受ける薬局の間における薬薬連携ですが、次の段階として、かかりつけ医の元に帰った患者さんが訪れる、かかりつけ薬局との連携ができないかと、考えています。患者さんには、シームレスな医療サービスの提供が必要ですから、病診連携があるように、いわゆる門前薬局と患者さんの自宅近くにあるかかりつけ薬局が連携をとることは重要です。私は多段階方式と呼んでいるのですが、エリアごとに、急性期病院、療養型病院、門前薬局、診療所、かかりつけ薬局の小さな病診薬連携をつくり、エリア同志がつながれば、連携の輪を広げることは比較的容易だと思います。北海道全域でも全国でも可能でしょう。核になるセンターを設けて、最初から大きな連携を目指すのは難しいと思いますので、いくつも小さな連携をつくり、それを網の目のようにつなげていくという形を目指すのが良いと考えています。ちょうどインターネットのweb、蜘蛛の巣状のネットワークといったイメージですね。こうした連携がうまくいけば、例え、遠方に住まわれる患者さんでも、退院時カンファレンスで、TV会議システムを活用し、かかりつけ薬局の先生を紹介することもできます。そうすれば、患者さんの安心につながるでしょう。ただ、北海道の現状はまだまだで、検査データの開示を行っているのは、当院と札幌市立病院だけです。
多段階方式の連携の仕組み

多段階方式の連携の仕組み

坂田:
薬局同士の連携の難しいところは、互いに競争相手であるという意識が拭えないことですね。けれども、薬剤師同士の個人的なつながりはあるので、今後、薬局が公的な役割を担っていかなければならないという状況をお互いに理解し、薬局同士の連携を考えていかなければならないと思っています。そうでないと私たちの未来は拓けないでしょう。