薬剤師 安村 伸枝先生に訊く
抗菌薬適正使用と集中治療(ICU)における薬剤師の関わり
ICU病棟と抗菌薬管理を担当
私は、病院全体の感染管理と集中治療病棟の一つ、ICUの病棟を担当する薬剤師として、活動しています。ICUでは最初、何をして良いのかわからず、自分の存在意義を問い続ける毎日でした。それまで担当していた一般病棟に比べ、服薬指導の必要性は低く、医師や看護師が多忙に動きまわる中で孤独感に苛まれていたように思います。そんな中で、事務的処理や薬剤部に問い合わせればわかるような内容の相談を積極的に受けることからスタートし、名前を覚えてもらう努力をしました。今は、内服薬の適正使用に資する業務はもちろんのこと、ICUに多いハイリスク薬の点滴について、ルートや速度、配合変化などを薬剤師の視点で確認しています。看護師から相談を受けることも増え、チームの一員として認知されるようになったのではないかと思います。
ICUでは自ら仕事を見つけることが必要です。抗菌薬が処方された患者さんに対しては薬剤師が介入できる機会が多く、「自分に知識があれば医師と話ができるのに」と思ったのがきっかけで、先輩の中野克哉先生に抗菌薬の使い方について、教えていただくようになりました。実際、抗菌薬に関連する処方提案の件数は、集中病棟4つを合わせると全体の54%に上り、一般病棟よりも提案の機会が多くなっています。
病棟担当薬剤師を中心にICTと連携した抗菌薬管理体制
抗菌薬の管理に関しては、抗菌薬管理表を作成し、2008年から運用を開始しています。これによって、薬剤師が指定抗菌薬の全例把握、医師への確認、医師と共同し感染対策委員会(ICT)への報告を行うようになりました。さらに2011年から抗菌薬管理表の運用方法を変更し、これまでICT担当薬剤師が一括して手書きで記入していたものを病棟担当薬剤師が電子カルテ内の文書システムに入力するようにし、効率的に介入できるようにしました。
抗菌薬管理表は、使用理由を明確化し、抗菌薬の選択、投与量の適性を評価することに役立ち、治療経過の確認とTDM実施に活用されています。実際、この運用が始まって、薬剤師から医師に対する抗菌薬の処方提案件数やTDM実施率が大幅にアップしました。
ICT担当薬剤師である私の役割は、各病棟担当薬剤師の相談を受け、サポートまたは介入することです。また週に1回は、指定抗菌薬を使用する患者さんの状況を確認し、ICTミーティング、ラウンド時に抗菌薬の使用状況を報告し、月1回、感染対策委員会への報告書を作成、提出しています。
抗菌薬管理表
TDM実施率の推移
後輩をより良く指導できるよう、知識、業務ともにレベルアップを目指す
私の課題は、抗菌薬でもICUにおける業務でも、さらなるレベルアップを図ることです。抗菌薬に特化して学び始めて3年になりますが、分からない時は中野先生に頼っているのが現状です。しかし今後、人に教える立場になることを考えると、自分で調べ、探究し、自分自身の考えや根拠について、自信を持って相手に伝えられるようにならなければ、と思っています。
一方、ICUでの病棟業務では、医師や看護師に認知され、薬剤師として介入できるようになってきましたが、殆どは投与後の症例です。しかし最近、投与前に相談を受けることも増えてきましたので、投与前に介入し、より安全で有効な薬物療法が提供できるよう取り組んでいきたいと思います。そのためには看護師、医師に私に「声を掛けてみよう」と思って頂くことが大切ですので、日々の業務の質を上げる努力を続けています。病棟業務は同じことを繰り返すこともできますが、自分の意思ひとつで業務を拡大できる現場です。特にICUに来てそれを強く感じますので、他職種に必要とされるためには何をすべきかを考え、介入できることを見つけ、新しい業務を少しずつ増やしていきたいですね。そして後輩を指導できる人材になりたいと思っています。