チーム医療における病院薬剤師の役割
NIPRO

Vol. 03 社会医療法人近森会 近森病院

背景 日本一多い病床数を有する高知県の中で、最も医療機関が集中する高知市内にある社会医療法人近森会近森病院は、高度急性期、救命救急医療に機能を絞り込み、「機能分化と協業」による充実した医療サービスの提供を実現している。医療専門職が病棟に常駐する体制もまた、全国に先駆けて確立し、自立、自動する多職種による精鋭のチーム医療を展開している。

薬剤部長 筒井 由佳先生に訊く
病棟業務を中心とする薬剤部の日常とあるべき姿

患者のために行う病棟薬剤業務

近森病院では、自立、自動する多職種が求められています。その中で薬剤部は、病棟業務を核として日々活動を行っています。服薬指導にしか点数が付かない時代から病棟に常駐していましたから、2012年に病棟薬剤業務実施加算が新設されたことは私たちにとって大きな喜びでした。病棟における薬剤師の役割は、各医療施設によって求められるものが違いますが、当院の場合、常に患者さんのために活動することが求められています。ですから、原則、配薬業務などの看護師等、他職種の業務負担軽減を目的とした業務に注力するのではなく、薬剤師の専門知識を生かしたより良い薬物療法のための安全確認、処方介入を中心に活動しています。
体制は、1病棟に担当薬剤師を1名配置し、ケースバイケースで互いを補うようにしています。一方で感染症、NST、糖尿病、化学療法などはそれぞれ専門知識をもった薬剤師がおり、横断的に相談を受けています。実のところ、以前は1病棟に2名近くの担当薬剤師を配置していたのですが、ここ数年で結婚や転居による退職者が続き、それでは回らなくなってしまいました。ただ、薬剤師不足を補うために10名のテクニカルスタッフが、病棟にも上がり、服薬指導の記録、持参薬のオーダーやTDMなどのデータ入力、各委員会に提出する資料作成など、相当な支援業務を行ってくれています。薬剤師が監査し、責任が取れることであれば、できるだけ業務委譲をし、病棟において薬剤師本来の職能を発揮できる業務を行っていく、というのが私たちの基本方針です。

薬剤師の臨床力を養うために

薬剤師が介入しやすい分野の一つに感染症があります。特に抗菌薬では、私たちの職能を生かした介入の機会が多いので、8年くらい前から知識レベルを上げる取り組みを始めました。きっかけは、病院全体で抗菌薬の採用品目を見直すときに呼吸器内科・感染症内科部長の石田正之先生にご協力いただいたことにあります。その頃、石田先生は長崎大学の熱研内科に帰属され、近森病院には月2回来られることになっていました。その貴重な時間の一部を「抗菌薬の使い方」についての講義に割いていただきたい、とお願いし、当薬剤部の中野克哉先生へのマンツーマン教育が実現しました。石田先生の講義は本当に丁寧で、学ぶものが多く中野先生も毎回、心待ちにしていたようです。お陰様で、中野先生は抗菌化学療法認定薬剤師の資格を取り、スペシャリストと言えるまでになりました。その後中野先生は、異動になり(現在は近森リハビリテーション病院勤務)、そのあとを引き継いだのが、後でお話させていただく安村伸枝先生です。さらに2015年4月から「石田塾」が始まり、石田先生と中野先生が講師となって月2回、薬剤師に向けて感染症に関する講義・症例検討会が開かれています。
当院のように病床数が多い場合、専門知識のある薬剤師が横断的にみる、といっても全て把握できませんので、全体の底上げが重要だと考えています。少し余談ですが、感染対策の一環として今、「抗菌薬投与前に培養検査を行いましょう」という推進キャンペーンを展開しています。薬剤部がデザインしたワッペンを皆さんに付けていただいておりますが、3年目の若い薬剤師の発案で始まったところが、当院らしいアクティブさだと思っています。
過去の話になりますが、最初に病棟に上がった時、薬剤師の臨床力不足は明らかで服薬指導以外にできることはあまりありませんでした。チーム医療では、他職種との共通言語として「病態をみる」「検査値をよむ」ための基礎知識は必須だと思います。院長も自ら週2回、薬剤師と管理栄養士の教育のためにNSTカンファレンスを行って下さいますので、恵まれた環境ではありますが、まだまだ努力が必要だと思っています。

薬剤部がデザインした推進キャンペーンワッペン
薬剤部がデザインした
推進キャンペーンワッペン


必要とされる薬剤師の育成が課題

第一に人員を増やして病棟業務を充実させたいのですが、そのためにはしっかり教育をしなければなりません。来年度内定が出ている新人10名の教育とともに、抜けの無い病棟業務、そのレベルアップのための体制を整えたいと思います。
もう一つ、薬剤師の臨床初期からの介入をより充実していきたいと思っています。現在ICUなどには、薬剤師を配置しており、早期介入の機会も増えてきましたが、将来的には、救命救急センター(ER)にも人員を配置したいと考えています。最近、ERに中毒患者さんが運ばれてきたことがありましたが、その場に薬剤師がいたらもっと早くに薬物中毒を疑うことができたはずです。ただERなどは一般病棟に比べ、瞬時の判断力や他職種とのコミュニケーション能力がより強く求められ、ハードルは高いと思います。しかし見方を変えると、実力を付ければ付けるほど、活躍の場を広げられるのが当院の特色と言えるでしょう。一方で、地域に帰っていく患者さんに対して、薬物治療の継続をサポートできるような介入、提案もしていきたいですね。
チーム医療の中で薬剤師が活躍する糧になるのは、「必要とされること」だと思います。ですから薬剤師自身が「必要とされたい」という思いを持ち、常に必要とされているか否かを自身に問い続けることが大切ではないでしょうか。これから活躍の場を広げる若い薬剤師に伝えたいことは、「自己満足ではいけない。最初に自らが評価して、薬物治療における個々の患者さんが抱える問題点を見つけ、その解決に向けて介入する。その結果どうなったかを再評価することが重要であることを心して欲しい」ということです。

Data

社会医療法人近森会 近森病院:
病床数512、15病棟(集中治療4病棟を含む)
薬剤師数25名(治験等を除く)、
テクニカルスタッフ10名、SPD9名

2012年度より病棟薬剤業務実施加算、算定