医療とネットワーク
NIPRO

Vol.3

震災経験で深まった絆と
ICTネットワークが進める医療連携
一般社団法人 福島県薬剤師会副会長 
島貫英二先生
2011年に起きた東日本大震災で、大きな被害を受けた福島県。医療においては、震災経験が多職種の絆を深め、ヒューマンネットワークの醸成につながっています。そのような中で東日本大震災からの復興事業の一環として「キビタン健康ネット」プロジェクトがスタート。ICTを活用した全県ネットワークとして構築され、運用が始まっています。その開発段階から大きな推進力を発揮している福島県薬剤師会の副会長 島貫英二先生にお話を伺いました。
中野一司先生
医薬連携にもICT活用を拡げ、
さらなる医療の質の向上を目指す
「キビタン健康ネット」は稼働して4年余り、これから改善を重ね、進化させていく段階に入ってきている。操作性と利便性の向上、情報量が増えることによるメリットの創出、認知度の向上、新たな仕組みの付加など、テーマは多岐にわたる。ここでも薬局薬剤師は、けん引役の一職種であり、今、活路を広げていくための模索を始めている。
「キビタン健康ネット」活用の課題についてお聞かせください。
「キビタン健康ネット」はセキュリティの高さは申し分ないのですが、利便性の面では改善の余地があります。薬局においては、レセコンや電子薬歴システムなどと合わせて同一画面で閲覧することが難しいのが現状です。また病院では、地域連携室など限られた端末からのみ閲覧可能になっているところが多いので、利便性の向上を図っていきたいと考えています。一方、参加施設を増やすことも課題の一つです。そのためには意識改革が必要でしょう。診療情報を得る作業は、業務量にも負荷がかかりますが、情報の活用は患者さんのより良い治療に役立ち、薬局薬剤師の知識や地位向上につながります。そのことを理解してもらうために成功事例を積み重ね、まさに変わろうとしている薬局の機能を提示していきたいと思います。同時に患者さんにも新しい薬局の在り方を理解していただくよう努めることが大切ですね。
今後の展望をお聞かせください。
今、診療情報の提供施設は基幹病院のみですので、基幹病院の処方せんを多く受け付ける薬局と比べると診療所の処方箋を受けている薬局のメリットは小さくなります。そこで診療所の検査値を閲覧できるシステムの導入を検討しています。各診療所では、様々な電子カルテシステムが導入されており、直接「キビタン健康ネット」につなげて公開することは難しいため、診療所の医師が外注する検査結果を検査会社と介して共有するプランを考えています。
また今年度の福島県委託事業として、短期入院患者を対象とした薬薬連携に「キビタン健康ネット」を活用する計画をたてています。その中で薬局は、持参薬確認と術前指導および退院後のフォローを実施する予定です。
薬局が目指すところは、国が推奨する「かかりつけ薬剤師・薬局」です。今は、患者さんは複数の薬局で薬をもらっておられるのが現状ですが、「かかりつけ薬局」が浸透すれば、調剤情報システムによるお薬の一元管理が容易になり、より活路が広がると考えています。

図③:「キビタン健康ネット」概要

「キビタン健康ネット」は、地域の医療・介護機関を暗号化されたインターネット回線で結ぶことにより、各施設を受診された際の検査・診断・治療内容・説明内容を、その後の診療に活かすことができる地域医療連携ネットワークシステムです。「キビタン健康ネット」の参加施設であれば、「キビタン健康ネット」の準備した様々なシステムをご利用になることができます。