医療とネットワーク
NIPRO

Vol.3

震災経験で深まった絆と
ICTネットワークが進める医療連携
一般社団法人 福島県薬剤師会副会長 
島貫英二先生
2011年に起きた東日本大震災で、大きな被害を受けた福島県。医療においては、震災経験が多職種の絆を深め、ヒューマンネットワークの醸成につながっています。そのような中で東日本大震災からの復興事業の一環として「キビタン健康ネット」プロジェクトがスタート。ICTを活用した全県ネットワークとして構築され、運用が始まっています。その開発段階から大きな推進力を発揮している福島県薬剤師会の副会長 島貫英二先生にお話を伺いました。
中野一司先生
「キビタン健康ネット」構築の軌跡
「キビタン健康ネット」は、福島県内の医療・介護施設間で医療情報を共有するために構築されたネットワークシステムである。構築にあたっては、2014年に「一般社団法人 福島県医療福祉情報ネットワーク協議会」を組織した。ここには福島県医師会、福島県立医科大学、福島県歯科医師会、福島県薬剤師会、福島県看護協会、福島県病院協会、福島県老人保健施設協会等が参画し、協議を重ねた上で、約1年後の2015年10月より運用を開始した。
「キビタン健康ネット」の構築にあたり、薬剤師会はどのような役割を担われましたか。
「キビタン健康ネット」の構築・運用組織である「福島県医療福祉情報連携ネットワーク協議会」は多職種が参加する組織で、運営部会では2ヵ月に一度の協議の場を持っています。福島県は、東日本大震災を機に職種間の距離が近くなり、連携・協力体制が一気に進んでいったように思います。理由は、私たちが経験した非常事態において、すべての医療職のキャパシティがオーバーし、自らの限界と皆で助け合うことの大切さを思い知ったからです。また震災時の混乱の中で、お薬手帳の重要性や薬局の機能が医療者の知るところとなり、薬局薬剤師が診療情報を得ることの大切さを理解してくださる医師も増えてきました。そのような中で「キビタン健康ネット」を構築する際、最初に薬局に予算を振り当て、ネットワーク整備を始めていこうということになりました。
‘薬局から’というのは珍しいですね。薬局が利用できる機能と使い方についてお教えください。
「キビタン健康ネット」の情報共有システムは、大きくは診療情報と調剤情報の二つに分かれています。活用するには、薬局や診療所等で患者さんの同意を得、患者さんには個別の番号が付番された「キビタン健康パスポート(ICカード)」をお渡しします。薬局の使用で主なものは、地域の基幹病院から提供される診療情報の閲覧と、薬局による調剤情報の提供になります。最初に参加施設登録が必要ですので、私は福島県内各地域での説明会やチェーン薬局本社などを訪問して参加を促し、またICT研修会も企画して「キビタン健康ネット」の周知に努めました。その結果、初年度より県内全薬局の半数近くが参加し、2019年10月末時点では417施設となっています。一方、現在(2019年12月1日時点)の情報提供病院数は40施設であり、今後、更に情報提供を予定している施設があります。県内最大の基幹病院である福島県立医科大学付属病院は、2020年春に診療情報提供を開始すべく最終調整が行われているようです。情報提供の範囲は病院の裁量になっていますが、ほとんどが画像を含む電子カルテの情報を提供しています。地区によっては情報提供病院が少ないところもありますが、これまで小さな地域ごとに医療連携が始まっているところに「キビタン健康ネット」が構築され、統合される形で輪が広がりつつあります(図①)。

図①:「キビタン健康ネット」の参加施設数

(2019年10月末時点)