医療とネットワーク
NIPRO

Vol.2

薬局薬剤師の視点からみた
長崎における医療ネットワーク
宮﨑 長一郎 先生
(宮﨑薬局 代表取締役/P-ネット代表世話人)
佐田 悦子 先生
(アクア薬局矢上店 薬剤師/P-ネット副代表世話人)
中村 美喜子 先生
(長崎県薬剤師会 副会長/ペンギン薬局/P-ネット事務局)
南野 潔 先生
(株式会社カインドヘルスサポート 代表取締役/西時津調剤薬局/P-ネット副代表世話人)
医療ネットワーク先進県として有名な長崎では、
システムをフル活用する保険薬局の薬剤師が増えています。
その軌跡と実際について、長崎薬剤師在宅医療研究会(通称P-ネット)のコアメンバーである宮﨑長一郎先生、佐田悦子先生、南野潔先生、中村美喜子先生に取材しました。
在宅医療におけるあじさいネットの活用
~双方向の情報共有がもたらすメリット~
あじさいネットの基本の仕組みは一方通行の情報共有だが、2014年から機能拡充の一環として開始された在宅医療での利用は、双方向が可能である。最大のメリットは、あじさいネットの強固なセキュリティ基盤を使って多職種で安全に情報共有できることだ。モバイル端末iPadによる利用も可能で、在宅医療に関わるスタッフ全員をグループ登録し、個々の携帯メールも登録すると、誰かが記録を登録した時点で全員の携帯電話に通知のメールが送信される仕組みである。また患者の同意があれば、入院中の記録も開示されるため、入院から在宅医療へと切れ目ない連携が可能である。
あじさいネットによる在宅医療チームの情報共有の実際についてお伺いします。
佐田悦子先生

佐田 悦子 先生

佐田:あじさいネットを使用する場合、在宅医がグループ登録をし、スタッフがあじさいネットに接続することで、情報共有が可能になります。ただし、接続には個人のIDが必要ですので、各人が入会している必要があります。訪問看護師の入会はまだ数が少なく、看護師が接続できない場合、あじさいネットを利用することはありません。私は、7-8名の医師とチームを組んでいますが、うち3名の医師がグループ登録をしています。あじさいネットを活用すると、従来のように自分が得た患者さんの情報をチームの皆に個別に連絡する必要がありません。また誰かが書き込みをすると携帯にメールで通知されますので、連絡の遅れ、漏れなどもなく、業務の効率化、医療の質の向上につながります。
佐田悦子先生

佐田 悦子 先生


中村:以前は、在宅チームでの情報共有にメーリングリストを使っていましたが、セキュリティの問題があり、個人名を隠すなど気を遣う場面が多々ありました。それに比べ強固なセキュリティを持つあじさいネットは安心ですし、データなども送れます。例えば、モバイル端末のカメラ機能を使って褥瘡の様子や血尿の色などを撮影し、画像情報を共有すれば、正確に患者さんの状況を伝えることができます。一方で佐田先生の言われたように、訪問看護ステーションの入会が鍵になるのですが、コスト面で躊躇されるところも少なくありません。しかし医師や患者さんの信頼を得、医療の質を高めるのに必要な投資ではないでしょうか。
在宅医療において、病院の診療情報が閲覧できる場合のメリットをお聞かせください。
佐田:患者さんがあじさいネットの開示施設に入院されていた場合、患者さんの同意を得た上で患者登録をすれば、入院中の診療情報が閲覧できます。私は緩和ケアの患者さんを多く受け持っていますので、必ず登録していただくようにしています。一番のメリットは、入院中の出来事や病状と治療の経過がわかることです。これまでは、薬に着目して目の前の患者さんを視ている薬剤師と在宅医の間では、考えにブレが生じやすかったのですが、入院中の診療情報を共有できることでブレ幅が縮小し、処方意図もより正確に把握できるようになりました。また、病院の緩和ケア専門医のコメントやがんの宣告を受けた時のご家族の様子などの情報は、訪問時の心構えや接し方、服薬指導などに役立っています。

南野:情報開示の範囲は病院によって異なりますが、長崎大学病院をはじめとする多くの病院が、処方や検査結果だけでなく、診療経過などが記載されている医師記録、看護記録、さらに紹介状、画像オーダー、読影レポートなどを開示しています。お蔭で病状や治療の経過はもちろんのこと、入院中の様子を事細かに知ることができ、そこから患者さんやご家族の心の動き、変化などを推察することができます。それは在宅医療を担う医療者にとって、とても重要なことだと思います。

中村:病院の主治医もあじさいネットに登録すれば、在宅医療の経過を知ることができます。特に、症状が悪化して再入院された場合には有用な情報源となるでしょう。また、がんの患者さんにはデリケートな対応が必要ですが、診療情報が確認できれば、患者さんの気持ちを汲みとりながら、自ら状況をお話くださるように誘導することも可能です。薬局の外来でも病院の診療情報から、在宅医療への移行やその時期を予測できれば、準備もしやすくなります。あじさいネットは、患者さんごとに使い方が広がるツールだと思っています。