「平岡回生堂薬局 富田店」三重県四日市市/平岡伸五氏
支店を出す過程ではドラッグストア型の店作りを試みた時期もあったそうです。しかし「まだコンビニやスーパーが少なかった時代は支持されましたが、当然ながらその後に出店を本格化した大手チェーンには敵いません。やはり相談薬局として勝負するには長年積み重ねてきた地域との密接なコミュニケーションに勝るものはない、と改めて気づかされたことは貴重な経験でした」。小売業の難しさを知るからこそ、顧客・患者との距離を縮める努力を怠らないイベントなどの取組みは、今も昔と変わらず身近に健康相談を受け付ける存在感の維持に結び付いています。
「最近は気軽に相談できる場が少ないのか、イベント案内やホームページを見て電話を頂いたり、わざわざ周辺の地域から新規の方が相談に来られるケースも目立ちます。うちは化粧品のスタッフや登録販売者も20~30年勤務のベテランが中心で、老舗というだけではなく、彼らの個性による親しみも魅力になっていると思います」。富田店の調剤室前に据えられた棚には、医薬分業が本格化する以前から積み重ねてきた顧客台帳がずらりと並び、累計客数を示す背表紙の数字は5桁に迫っています。ここには調剤の薬歴に関わらず、体質・体調から相談内容、悩みごと、販売したOTC薬や健康食品、その後の経過といった全ての対応内容が細かく記録されており、健康サポート薬局・かかりつけ薬剤師に求められる一元的な管理体制を先取りするものとなっています。
「薬害が世間的に問題になった頃、先代が『薬でもカルテを作るべき』とOTC薬や漢方相談で始めたものが今に繋がっています。うちのような昔ながらの相談薬局経営にとっては、むしろ健康サポート薬局の要件と言っても基本に合わせるような形になると思います。近年は整理しながら新しい顧客をシステム登録に切り替えていますが、さすがに項目が複雑過ぎて全体的な電子化は諦めました(笑)」。
古くからの顧客になると記載は4代にもわたるそうです。まさに相談薬局の技と手法が継承されている証(あかし)。さらに平岡氏は「調剤での薬物療法はどうしても病気を見て薬を出す感じになりますが、予防的な要素も含めて健康に関与するには生理学など幅広い知識と経験が求められ、特に慢性疾患の場合など細かなカウンセリングが必要で、相談応需といっても当たり障りのないレベルだとあまり意味がありません。そういう意味では薬局と言っても、最終的には薬剤師個々の資質や能力勝負になると思います」と、やはり老舗の歴史に甘んじない薬剤師としての個性・実力の重要性をあげます。
昭和40年代前半、改装売り出しの頃