地域に、人に、全力疾走で健康支援に取り組む姿が、国籍を超えた支持を集める

「ゆうせい薬局」大阪府大阪市/小西明氏

日頃のコミュニケーションから、地域の言語問題に気付き、解決に向け着手

地域に根差した接客と、日頃のコミュニケーションの中で感じた印象を重要視してきた同薬局は、工業エリアならではの“喫緊の課題”に着手して脚光を集めています。それが多言語対応です。

きっかけは日常の中にありました。ある時、服薬指導をしている最中、どうも言葉を理解している感じがしない患者さんがいらっしゃったそうです。日本語はもちろん、英語も通じません。「国勢調査データを調べてみると、出来島周辺は外国人労働者が多く、とりわけペルー人とブラジル人が突出していることがわかりました。母国語は前者がスペイン語、後者はポルトガル語だったので、英語が通じないことも理解できました」。

そこで薬剤師としてまずは薬を正しく服用していただくことを大前提に、服用回数などを外国語で記した用紙を用意したほか、初回患者の質問票は5カ国語に翻訳し、症状の説明などを行うための指差しチェック表の作成など、様々な多言語対応を実施しました。

これらの対応は外国人利用者から好評を博しており、アンケートを取ると「気遣いのできる薬局」である旨や「また来店したい」との回答を頂いているそうで、小西さんは「本当に嬉しいです」と頬を緩めます。

しかし「多言語対応に関しては、お金や手間をかけていない単純なものばかりなんです」と語ります。薬袋に外国語で情報を貼付したり、指差しチェック表を作成したりすることは、それほど大変なことではないですと語り、「どこもそれをやっていなかっただけで、小さなことに気が付き、行動を起こすかどうかの違いだと思います。『気付いてもやらない』ことと『気付いて実行する』ことは、患者・利用者の方から見れば全く印象が違います」と強調する姿は、常に全力疾走という言葉を体現しているようです。

また初回患者の多言語質問票は、西淀川区薬剤師会を通じて、地域包括ケアシステム委員会としても活用を始めました。質問票は副作用の経験の有無から薬以外のアレルギーの有無、これまで罹った病気、お酒やたばこといった個人の嗜好、自動車・バイクの運転、睡眠時間、食事時間などについて確認する内容で、医療関係者の共通認識が得られることを考慮して作成するなど、患者・利用者の安心・安全を最優先していることがうかがえます。

バブル経済の崩壊、阪神淡路大震災の発生、そして近年の経済構造の変化などは出来島エリアにも大きな影響を与えており、外国人労働者は一時期に比べると少なくなっています。しかしながら、長く日本で暮らしている方は一定数存在します。「出稼ぎで来日している労働者の家族は、日本語のみならず、母国語もままならない人もいるので、将来について不安を感じているようです。多言語対応の用紙の作成に協力してくれた高校生もそうした悩みを持っていました」と語り、同様の不安を抱える外国人たちがいることを打ち明けます。悩みを聞いておきながら、知らない顔をすることはできないと考えた小西さんは、問題解決の一助になれればと地域交流に協力し、NPOや商店街を巻き込んで外国人学習支援教室の応援や多文化交流イベントを計画しています。これらの企画も、これまでただ薬のやり取りをするだけではなく、地域と密接な関係を築いてきたからこそ実行できるのです。また何よりもこの姿勢は薬局や薬剤師といった役割を超えた熱意の表れということがいえるでしょう。