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バイオシミラーへの期待
~医療費の現状から考える~
薬剤師トレンドBOX#54
令和6年度の概算医療費は48兆円と過去最高を更新しました。その背景には医療の高度化や高齢化が影響しています。医療の高度化は、個々の患者に最適な医療を提供することに寄与する一方で、社会全体が負担すべき医療費を押し上げる要因ともなっています。また年代別でみると、75歳以上の高齢者の医療費が約4割を占め、1人あたり97.4万円の計算になります。さらなる高齢化の進展により医療需要そのものが増加しています。こうした状況を受け、医療費の適正化に向けた制度の見直しが進む中、医療費の抑制と治療の質を両立できる選択肢として、バイオシミラー(バイオ後続品)が改めて注目されています。本記事では、バイオシミラーの基本的な知識と医療費との関係についてご紹介します。

バイオシミラーの基本的知識と医療費への影響
バイオシミラーとは、国内ですでに承認されている先行バイオ医薬品(バイオテクノロジー応用医薬品)と、品質・安全性・有効性が同等/同質であることを確認したうえで、別の製造販売業者により開発されるバイオ医薬品のことです。
先発医薬品と「同一の有効成分」が「同じ量」含まれているのが後発医薬品(ジェネリック医薬品)であるのに対し、先行バイオ医薬品と「同等/同質の有効成分」が「同じ量」含まれているのがバイオシミラーです。
先行バイオ医薬品とバイオシミラーは、有効成分であるタンパク質の基本的な構造(アミノ酸配列)は同一ですが、高次構造により、両者間で有効成分の同一性等の検証が困難です。このため、有効成分は「同等/同質」と表現されます。
なお、先行バイオ医薬品と製造方法が同一で、包装や表示のみが異なる製品は「バイオAG」とよばれています。
医療費適正化計画におけるバイオシミラー普及の現状
バイオシミラーが普及することは、医療費の適正化に深く結びついています。高齢化が進む中、持続可能な医療制度を確保するための取り組みが一層求められ、1982年に制定された「高齢者の医療の確保に関する法律」では、国と都道府県が連携して6年を1期とする医療費適正化計画が定められました。
第4期医療費適正化計画(2024~2029年度)では、バイオシミラー普及に向けた新たな目標が追加されています。具体的には、2029年度までに「バイオ後続品が80%以上を占める成分数を全体の60%以上」とする目標が掲げられています。
しかし、2024年時点のデータを見ると、バイオシミラーへの置き換え率が80%以上に達している成分は、対象18成分中4成分にとどまり、全体の22.2%にすぎません。また、2026年1月28日現在、バイオシミラーは22成分が薬価基準に収載されていますが、成分数の増加が必ずしも実際の使用拡大には結び付いていないのが現状です。
さらに、令和6年薬価調査におけるバイオシミラーの置き換え率は、金額ベースで33.7%と低水準にとどまっており、目標達成に向けては、引き続き置き換えを促進する取り組みが求められています。こうした状況を背景に、近年は医療制度全体においても医療費負担の在り方や医薬品使用の効率化を含めた制度改革が検討されています。
医療費削減に向けた制度改革
2024年9月13日、政府は新たな高齢社会対策大綱を閣議決定しました。この大綱は、急速に進行する高齢化社会に対応し、持続可能な社会を構築することを目的としています。日本では今後も世界に例を見ないスピードで高齢化が進むとされており、2024年10月1日時点の高齢化率は29.3%、2070年には38.7%に達する見込みです。
この変化に伴い、生産年齢人口の減少、一人暮らし高齢者の増加、加齢に伴う身体機能・認知機能が低下する人の増加などへの対応が急務となっています。
一方で高齢者の体力的な若返りも指摘されており、65歳以上の就業者数は20年連続で前年を上回って過去最高となり、就業意欲の高まりが伺えます。こうした状況を踏まえ、後期高齢者の窓口3割負担(現役並み所得)の判断基準の見直しが検討されています。
2023年12月22日の閣議決定では、年齢にかかわらず能力に応じて負担し支え合うという考えのもと、2028年度までに見直しを検討することが示されました。
患者負担という点で、自己負担割合の見直しは認識されやすい医療政策といえます。一方、患者希望 による後発医薬品やバイオシミラーへの切り替えでは、公費医療負担制度により自己負担が変わらない場合、医療費削減が実感されにくく、普及が進みにくい側面があります。
特にバイオシミラーは、医療機関での使用が必ずしも進んでおらず、普及には時間を要しているのが現状です。
こうした状況を踏まえ、令和6年度診療報酬改定では、「バイオ後続品使用体制加算(入院初日)」が新設されるとともに、「バイオ後続品導入初期加算」の見直しが行われました。これは、バイオシミラーの導入や使用体制の整備に積極的に取り組む医療機関を適切に評価する仕組みを整えたものであり、制度面から普及を後押しするものです。これにより、バイオシミラーの使用が一層進み、医療費の適正化や患者負担の軽減につながることが期待されています。
令和8年度診療・調剤報酬改定では、「バイオ後続品使用体制加算」が退院日での算定に見直されました。さらに、バイオ後続品の使用促進を目的として、薬局における調剤体制の整備や患者への説明を評価する新たな仕組みとして「バイオ後続品調剤体制加算」が導入されました。算定には、バイオ医薬品の適切な保管及び患者への適切な説明ができる体制が整備されていることが求められます。これにより、薬剤師による患者への切り替え提案を促進することが期待されています。
また、後発医薬品への置き換えの進展等を踏まえ、「一般名処方加算」の評価が見直されました。新たに、バイオ後続品のあるバイオ医薬品も評価対象に加えられ、バイオ医薬品においても一般名処方を通じた使用促進が図られることとなります。
加えて、バイオ医薬品の一般名処方を受けた患者さん、あるいはバイオ後続品が処方された患者さんに対し、その品質、有効性、安全性について適切な説明を行った場合、「特定薬剤管理指導加算3」の算定が可能となりました。バイオシミラーに対する患者の理解や納得を得るためには、薬剤師による科学的根拠に基づいた丁寧な説明が不可欠です。調剤報酬上の評価が整備された今、薬剤師には、単なる価格差の説明にとどまらず、同等性/同質性評価の考え方や承認審査の厳格性、安全性情報などをわかりやすく伝える専門職としての役割が一層求められています。
バイオシミラーにおける薬価設定の考え方
低分子医薬品の薬事承認では、後発医薬品は有効成分の同一性や血中濃度推移によって評価されます。一方、バイオシミラーでは、複雑な構造、不安定性等の品質特性から、有効成分の同一性等の検証が困難です。そのため、品質の類似性に加え、臨床試験等によって先行バイオ医薬品と同じ効能・効果、用法・用量で使用できることが検証されます。
通常、後発医薬品の薬価は先発医薬品の約50%に設定されるのに対し、バイオシミラーは先行バイオ医薬品の約70%に設定されます。
これは、研究開発費や製造コストが高額であること、さらに承認申請時に臨床試験や製造販売後調査が求められることが理由の一つとされています。
| 後発医薬品 | バイオシミラー | |
|---|---|---|
| 先発品 / 先行医薬品 | 化学合成医薬品 | バイオ医薬品 |
| 後発品に求められる条件(有効成分の品質特性) | 有効成分、成分量等が先発品と同一である | 品質・有効性等が先行バイオ医薬品と同等 / 同質である |
| 開発上重要なポイント | 主に製剤 | 主に原薬 |
| 臨床試験 | 生物学的同等性試験による評価が基本 | 同等性 / 同質性を評価する治験が必要 |
| 製造販売後調査 | 原則 実施しない | 原則 実施する |
参考:独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 バイオシミラーに係る政府方針
医療費適正化とバイオシミラー普及を支える薬剤師
バイオシミラーの普及において、薬剤師の果たす役割は非常に重要です。特にバイオシミラーは患者さんにとって理解が難しい場合も多く、品質・在庫管理や免疫原性による有害事象などに注意しながら、患者さん一人ひとりの不安に寄り添った説明や医師との連携が不可欠です。
持続可能な医療の実現に向けて、医療費の適正化とバイオシミラーの普及における薬剤師の専門性がより一層重要になるでしょう。

参考文献
- 「令和6年度 医療費の動向」を公表します ~概算医療費の年度集計結果~|厚生労働省
- バイオ後続品|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
- 個別事項(その12)後発医薬品、バイオ後続品の使用体制②|厚生労働省
- 令和8年度薬価制度改革について|厚生労働省
- 医療費適正化計画について|厚生労働省
- 第4期医療費適正化計画(2024~2029年度)に向けた見直し|厚生労働省
- 日本で承認されているバイオシミラー一覧|一般社団法人 日本バイオシミラー協議会
- 令和7年版高齢社会白書(全体版)(PDF版)第1章 高齢化の状況(第1節及び第2節)|内閣府
- 高齢社会対策大綱 令和6年9月13日|内閣府
- 中央社会保険医療協議会 総会(第647回)総-1 個別改定項目について
- 公費負担医療制度のしくみ|社会保障診療報酬支払基金
- バイオシミラーに係る政府方針|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
- 有効成分、製法等が先発品と同一のバイオ医薬品の取扱いについて|厚生労働省
(2026年3月掲載)
編集:株式会社 医学アカデミー

