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知っておきたい、アルツハイマー型認知症の
行動・心理症状(BPSD)と薬物療法のポイント

薬剤師トレンドBOX#53

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65歳以上の高齢者の割合が30%に迫る今日、認知症の患者さんやそのご家族への服薬相談の中で「夜になると興奮してしまう」「急に怒りっぽくなった」といった訴えを耳にすることもあるかもしれません。これらの行動・心理症状は、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)とよばれ、患者さんとご家族のQOLに大きく影響します。今回は薬剤師が知っておきたいBPSDとその薬物療法、薬剤師が意識したいポイントについてご紹介します。

認知症のBPSDについて

現在の日本では、高齢化の進展とともに、認知症と診断される人も増加しています。厚生労働省の調査(2022年)では、65歳以上の高齢者のうち、認知症の人の割合は12.3%、軽度認知障害(MCI)の人の割合は15.5%とされ、高齢者の3人に1人は認知機能にかかわる問題を抱えています。認知症にはアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがあります。日本認知症学会の調査(2022年)によると、認知症のうち、最も多いのがアルツハイマー型認知症で、全体の52.6%を占めています。アルツハイマー型認知症は、脳内に蓄積したアミロイドβなどの特殊なたんぱく質によって神経細胞が変性・脱落し、脳の萎縮が生じることで発症します。
過去の出来事は比較的よく覚えている一方で、最近の出来事を忘れやすいという特徴がみられ、症状が進行すると時間や場所の感覚を失ったり、状況に応じた判断が難しくなったりと、日常生活への影響が徐々に大きくなります。

認知症の患者さんの6~9割が経験するBPSD

アルツハイマー型認知症の症状は、物忘れや判断力の低下などの、認知機能障害(中核症状)と、環境や心理反応などのさまざまな要因が加わって現れるBPSD(周辺症状)に分けられます。BPSDは行動・心理面にみられるさまざまな症状の総称です。行動面では暴力や暴言、徘徊(一人歩き)、拒絶、不潔行為などの症状が見られ、心理面では抑うつや不安、幻覚、妄想、睡眠障害などの精神症状が見られます。
BPSDに対応する向精神薬使用ガイドラインによると、アルツハイマー型認知症をはじめとする認知症の患者さんの約60〜90%が何らかのBPSDを経験するとされ、その出現・悪化は尊厳の低下、介護負担の増大、施設入所の早期化、医療・介護費用の増加など、多方面に悪影響をもたらすと考えられています。
薬剤師とのかかわりの中では、「最近怒りっぽくなった」「ものを盗られたと思い込んでいることがある」など主にご家族のお困りごとが表に出ることが多くあります。BPSDは「性格の問題」ではなく、認知症に伴う症状であり、適切にとらえて対応すべき対象であることを薬剤師自身が理解し、患者さんやご家族に分かりやすく説明することが重要です。

せん妄・身体的要因との鑑別

お困りごとの中で、重度のうつ状態や他者に危害を加える可能性が高い妄想、自分自身・他者の安全を脅かすような強い攻撃性など、緊急性の高い精神症状がみられる場合には、速やかに専門の医療機関への受診を勧める必要があります。BPSDの診断では、まずBPSDと似た症状を示す病態や薬剤の影響を考慮し、除外・鑑別を行うことが重要であるとされています。

● せん妄の除外
● BPSD様症状を引き起こし得る病態の鑑別
  • 内科的要因:感染症、脱水、甲状腺機能低下症、ビタミンB1・B12欠乏症、低酸素症、高血糖、電解質異常
  • 神経学的要因:脳血管障害、脳炎・髄膜炎、脳腫瘍、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫
  • 精神・生理的要因:各種の痛み、便秘、うつ病
  • 感覚障害による要因:視覚障害、聴覚障害
● BPSD様症状を引き起こし得る薬剤の除外
  • 抗認知症薬、H2ブロッカー、第一世代抗ヒスタミン薬、ベンゾジアゼピン系薬剤、三環系抗うつ薬、プレガバリン、ミロガバリンベシル酸塩、トラマドール塩酸塩、その他の抗コリン作用のある薬剤等
● レビー小体型認知症の可能性
  • レビー小体型認知症は幻視や妄想を起こしやすいが、抗精神病薬への過敏性が認められるため、安易に抗精神病薬を使用しない。

引用:厚生労働省 かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)p.3

薬剤師はBPSDだけでなく、せん妄や身体疾患の悪化、薬剤の副作用などさまざまな要因を考慮しながら、患者さんやご家族から丁寧に情報を聴取することが重要です。せん妄では、注意障害や軽い意識障害を中心に、睡眠・覚醒リズムの乱れ、急激な認知機能の低下、幻視、感情の不安定さなどがみられます。数時間〜数日で急に発症し、日内変動が大きい点も特徴です。そこで、「症状は突然始まりましたか」「1日の中で症状の強さに波はありますか」といった質問を行い、せん妄の可能性を慎重に評価します。
さらに、症状が出現した時期にも注目し、その前後で新たに薬剤が追加されたり、変更されたりしていないかを確認します。また、発熱や痛み、便秘など、身体状態に変化がないかを聞き取ることも不可欠です。こうした情報を総合的に判断することで、BPSD以外の原因を見落とすことなく、適切な対応につなげることができます。

BPSD治療への基本的アプローチ

BPSDへの対応として、2025年に改訂された厚生労働省の向精神薬使用ガイドラインでは、治療アルゴリズムが見直されました。従来のアルゴリズムでは、BPSDの症状を「幻覚、妄想、焦燥、攻撃性」「抑うつ症状、アパシー(無為)」「不安、緊張、易刺激性」「睡眠障害」「過食、異食、徘徊、介護への抵抗」の5つのカテゴリーに分類されていましたが、「幻覚・妄想」「易刺激性・焦燥性興奮」「不安・抑うつ」「アパシー」「睡眠障害」の5つに変更され、副作用のモニタリングについて細かく記載されるようになりました。

第一選択は非薬物的介入

BPSDの治療においては、非薬物的介入が第一選択と明記されています。非薬物的介入には、環境調整やケアの見直し、心理的介入、通所リハビリテーションの利用などが含まれます。薬剤師として直接介入を行うことが難しい場面でも、「テレビの音が大きすぎたり、照明が明るすぎたりしませんか(不適切な環境刺激)」や「夜間にトイレへ行きやすい工夫はされていますか」といった質問を通じて、ご家族に環境の調整や整備を促すことができます。こうした働きかけは、生活環境の改善につながるだけでなく、BPSDの悪化を未然に防ぐための大切な支援となります。

BPSD治療における薬物療法の基本

非薬物的介入を行った上で症状が改善しない場合には、認知症専門医がいる医療機関との連携のもと向精神薬の使用を検討します。使用する際は、まず薬のベネフィットとリスクをご本人やご家族と共有し、共同意思決定(SDM)を通じて慎重に使用の可否を判断します。BPSDに対応する向精神薬使用ガイドラインで薬物的介入として挙げられている向精神薬には、抗認知症薬、抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠導入薬、抑肝散、抗不安薬があります。中でも、実臨床で使用される機会が多く、有効性と安全性のバランスを評価することが特に重要となるのが抗認知症薬と抗精神病薬です。

抗認知症薬の特徴と使用時のポイント

抗認知症薬は認知症症状の進行を緩やかにする目的で使用されますが、患者さんによってはBPSDの改善につながる場合もあれば、逆に症状が悪化してしまうこともあり、慎重な対応が必要です。まず開始用量からゆっくり増量することが基本で、副作用が見られる場合には増量を控えたり、他剤へ切り替えたりすることも検討します。高齢、低体重、肝・腎機能の低下などがある場合は、添付文書の用量内で適宜投与量を調節する必要があります。また、保険適用より少ない量を長期間使う場合は、有効性や安全性のエビデンスが十分ではない点にも注意が必要です。
抗認知症薬投与後に興奮や活動性がかえって高まり、介護負担が増してしまう場合には、中止や他剤への変更を検討する必要があります。BPSDは脳の病変だけでなく、生活環境や人間関係、ご本人の性格など多くの要因が影響するため、「何が症状を引き起こしているのか」を丁寧に探りながら治療を進める姿勢が大切です。
さらに、薬物相互作用にも注意が必要です。アルツハイマー型認知症では、コリンエステラーゼ阻害薬およびメマンチンが保険適用を受けていますが、コリンエステラーゼ阻害薬はコリン作動薬と併用すると作用が増強され、抗コリン薬があると作用減弱が起こります。また、メマンチンはドパミン作動薬の作用を増強する可能性があり、アマンタジンとメマンチンはいずれもNMDA受容体拮抗作用を持ち相互に作用を強める可能性があるため、併用時には慎重な観察が欠かせません。
加えて、抗認知症薬を減量・中止する際は、認知機能が悪化したという報告もあり、専門医の意見やご本人・ご家族との話し合いを十分に行いながら進めることが望まれます。

抗精神病薬の特徴と使用時のポイント

抗精神病薬をBPSDに使用する際、治療開始後は症状の変化を丁寧に見守り、減量や中止が可能かを常に検討しながら、長期使用を避ける姿勢が基本です。
アルツハイマー型認知症と診断された患者さんのうち、焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動が認められる場合には、ブレクスピプラゾールが保険適用となっています。また、クエチアピン、ハロペリドール、ペロスピロン、リスペリドンに関して、「器質的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性」に対して処方した場合、原則として審査上、該当する使用事例を認める旨の通達が、2011年に厚生労働省より示されています。この中で、ハロペリドールは錐体外路系副作用が強いため、パーキンソン病やレビー小体型認知症の患者さんには使用禁忌であることに注意が必要です。
過活動又は攻撃的言動がアルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因している場合には適応のある薬剤を最優先します。その薬剤が無効であった時にはクエチアピン、ペロスピロン、リスペリドンの使用を考慮してもよいとされています。
一方で、焦燥感、易刺激性、興奮を認めない徘徊に対しては薬物療法の有効性が乏しいため、非薬物的介入が推奨されます。

抗精神病薬には、重大な副作用や日常生活に影響する副作用も少なくありません。そのため、適応を有する薬剤を優先し、複数の抗精神病薬を併用せず1剤で治療することが基本方針となります。効果の判定にはおおむね2週間ほどかけ、症状を無理に抑え込むよりも、生活の質を保ちながら継続できる適切な量を探ることが大切です。改善がみられた場合でも、4か月以内には減量や中止を試み、副作用が出た際には速やかに減量もしくは中止を検討します。また、副作用は投与開始早期だけでなく長期使用中に現れることもあるため、継続的なモニタリングが欠かせません。併用禁忌となる薬剤がある点にも注意し、併用薬の確認を徹底することが重要です。

最後に

BPSDは生活機能や介護負担に大きく影響する重要な症状です。その背景には脳の病変だけでなく、さまざまな因子がかかわっているため、まずは非薬物的介入を中心としたアプローチを行うことが基本です。
それでも改善が難しい場合には、抗認知症薬や抗精神病薬をはじめとする薬物的介入が選択肢となりますが、これらの薬剤には有効性とともに副作用のリスクも存在し、慎重な投与判断と継続的なモニタリングが欠かせません。
薬剤師は日常の服薬状況、副作用の兆候、生活環境の変化など、小さなサインを早くキャッチできる立場にあります。患者さんやご家族の不安を受け止め、情報を丁寧に聞き取り、必要に応じて医師やケアチームに共有することで、安全で質の高い認知症ケアに大きく貢献できるでしょう。

(2026年1月掲載)
編集:株式会社 医学アカデミー

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