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知っておきたい、がん患者さんとそのご家族を支援する制度やサービス

薬剤師トレンドBOX#52

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がん治療は長期に及ぶことも多く、患者さん本人やそのご家族は治療や副作用への不安、経済的な負担や将来に対する漠然とした不安などから、心身の疲弊を感じる人も少なくありません。薬剤師は、患者さんやご家族の「生活」を支える立場です。今回は、薬剤師が知っておくと安心につながる、がん患者さんやそのご家族を支える制度やサービスをご紹介します。

がん患者さんとご家族を取り巻く現実

がんの診断を受けることは、患者さん本人だけでなく、そのご家族にとっても大きな出来事です。治療に伴う副作用や日常生活の制限といった身体的な負担だけでなく、経済的な不安や将来への心配といった精神的な重圧も少なくありません。実際、厚生労働省の調査によると、がん患者さんの多くが「就労・経済的負担」、「家族・周囲の人との関係」など生活への影響に強い不安を抱えているとされています。

2013がん体験者の悩みや負担等に関する実態調査報告書「がんと向き合った4,054人の声」| 厚生労働省 図3-2 2013年を参考に作成

がん患者さんが必要とする支援は、年齢や生活環境、病期によって大きく異なります。例えば若い世代では学業や就労、結婚や育児に関する悩みが大きく、高齢世代では介護や在宅療養の課題が中心になります。
薬剤師がこうした多様な背景に応じた支援制度やサービスを理解しておくことで、患者さんや家族に寄り添ったアドバイスを届けられるようになります。

がん患者さんとご家族への相談支援体制

がんの診断を受けた直後に、支援制度の存在を知らないまま戸惑いや心配を抱える人も少なくありません。そんなとき、薬剤師が制度の内容や相談窓口についてわかりやすく案内できると心強い支えになるでしょう。

医療費の自己負担を抑える制度

がん治療は長期化することも多く、通院や治療などで経済的負担が大きくなりがちです。そのようなときに活用できるのが、一般的にもよく知られるようになった「高額療養費制度」と「医療費控除」です。これらの制度は、がん治療に伴って生じる医療費の負担を抑えることのできる仕組みです。

● 高額療養費制度

医療機関や薬局の窓口で1か月に支払った額が上限額を超えた場合に、その超えた金額が支給される制度です。なお、事前に「限度額適用認定証」を提示するか、マイナンバーカードを健康保険証として利用すれば窓口での支払いを抑えることができます。入院時の食費や差額ベッド代などは含みません。
加入している公的医療保険の窓口やがん相談支援センター、病院の会計担当者、地域の社会福祉協議会などで相談を受け付けています。

● 医療費控除

1年間に支払った医療費が一定額を超える場合、その医療費の額を基に計算される金額が所得から控除される制度です。通院にかかる交通費、入院時の部屋代や食費なども含まれます。なお、生命保険から支給される入院給付金や高額療養費などを差し引いた後の金額が対象です。
住所地管轄の税務署などで相談を受け付けています。

これらの制度の申請には、薬局でお渡しする領収書が必要になります。「高額療養費制度や医療費控除に使えますから、領収書は大切に保管してくださいね」と薬剤師が一言添えるだけで、患者さんの安心感は大きく高まります。

治療中の生活を助ける制度

がん治療の過程では、入院や治療などにより働けなくなることがあります。厚生労働省の調査(2019年)では、がん患者の3人に1人は20~60代であり、働きながら通院している人は44.8万人と増加傾向であることが示されています。また、患者さんのご家族が介護のために仕事を休まざるを得ない場合もあります。
そんなときに利用できるのが「傷病手当金」や「介護休業給付金」です。これらは休職中や介護で収入が減ったときに一定の所得を保障し、患者さんとご家族の生活を支える制度です。経済的な安心があることで、治療や介護に専念しやすくなります。また、長期で療養を必要とする人向けの就職支援も行われています。

● 傷病手当金

健康保険や共済組合に加入している労働者が病気やケガで就労できないときに、給与の約3分の2に相当する金額が最長1年6か月間支給される制度のことです。
勤務先の担当者や協会けんぽ、健康保険組合などで相談を受け付けています。

● 介護休業給付金

雇用保険に加入している労働者が家族を介護するために休業を取得したときに、所得の一部が保障される制度です。支給額は給与の67%で、介護の対象となる家族1人につき最長93日間利用できます。有期雇用労働者(パート、派遣、契約社員など雇用期間に定めがある労働者)も、条件を満たせば利用可能とされています。
最寄りのハローワークなどで相談を受け付けています。

● 長期療養者就職支援事業

ハローワークに配置された専門相談員に、治療と仕事をどう両立させるか、職場復帰の方法、転職活動の支援など、具体的なアドバイスを受けられる仕組みです。
対象となるのは、長期にわたる治療等のために離職・転職を余儀なくされた人で、就職を希望する人です。在職中であっても、就労の継続や退職に関する相談など、助言や支援を希望する場合には対象となります。
専門相談員の配置されたハローワークで相談が可能なほか、がん診療連携拠点病院で出張相談を実施しています。

がん患者さんとそのご家族に寄り添う相談窓口

診断から治療、その後の療養生活、さらには社会復帰と、生活全般にわたって疑問や不安を感じたとき、一人で悩まず、気軽に相談できる窓口があります。また、特別に相談はなくても今の気持ちを話したい、何を相談してよいのか分からない、といったときにも利用できます。

● がん相談支援センター

全国のがん診療連携拠点病院に設置されており、医療や経済、就労、生活の悩みまで幅広く無料・匿名で相談が可能です。その病院の患者さんはもちろん、ご家族やその病院に通っていない人も利用できます。

● 地域包括支援センター

市町村が設置主体となり、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員などが配置され、保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設です。対象はその地域に住む65歳以上の高齢者やそのご家族で、一人ひとりにあったサービスを利用できるよう支援しています。紹介状などは必要なく、不安なことがあれば相談が可能です。

ご家族の負担をやわらげる「レスパイト・ケア」

長期にわたる療養生活では、患者さん本人だけでなく、介護を行うご家族も心身の負担を感じることがあります。また、仕事との両立が難しくなることもあります。そのような場合に、施設(代理機関や公的サービスなど)が一時的にご家族に代わって介護を行い、ご家族の心身の負担軽減を行うことをレスパイト・ケアとよびます。レスパイト(respite)とは「休息」を意味しています。ショートステイなどのレスパイト・ケアを活用すれば、ご家族が心身を整える時間を確保でき、結果として療養生活を安定させることにもつながります。

● ショートステイを利用できる例
(要支援1~2、要介護1~5の認定を受けた場合)
  • 利用者の心身の状況や病状が悪い場合
  • 家族(介護者)の疾病、冠婚葬祭、出張
  • 家族(介護者)の身体的・精神的負担の軽減

介護保険を利用してショートステイを使う場合は、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談することが必要です。小児の患者さんについては、児童相談所が窓口になります。なお、介護保険の対象外となる場合でも、有料でショートステイを提供している施設がありますので、利用を検討する患者さんがいらっしゃった際には、情報を調べてみるとよいでしょう。

診断直後からスタートする緩和ケア

がんが進行し治癒が難しい段階では「生活の質を保つこと」そのものが支援の焦点となります。終末期のイメージが強い緩和ケアですが、がんと診断されたときから心身のつらさに対してケアを受けることが大切であると考えられています。通院・入院・在宅療養のいずれでもケアを受けられ、痛みや不安だけでなく、治療中の生活の質を向上させることも目的とされています。緩和ケアに特化した施設はもちろん、がんの治療のために入院した病院でも緩和ケアを受けることができ、医師や看護師をはじめとした緩和ケアチームがその人らしく過ごせるように支援しています。
なお、緩和ケアの施設では、入院のために待機している人がいる場合もあり、利用を希望する場合は主治医への早めの相談が必要です。がん相談支援センターでも緩和ケア病棟の情報を得ることができます。

薬剤師が寄り添う一言の力

がん患者さんとご家族を支える制度やサービスは、決して特別なものではなく、誰でも利用できる社会の仕組みです。しかし「知らない」「どこに相談すればよいかわからない」ために活用できないケースも少なくありません。
薬剤師は日々の服薬指導やちょっとした会話を通じて、その橋渡し役を担うことができます。制度やサービスの存在を伝える一言が、患者さんとそのご家族にとって大きな安心と支えとなります。薬の専門家であるのはもちろん、生活全般を支えるパートナーとして、薬剤師が果たす役割は、これからますます広がっていくでしょう。

参考文献

(2025年10月掲載)
編集:株式会社 医学アカデミー

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