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2025年薬機法等制度改正にむけて

薬剤師トレンドBOX#50

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政府はこれまで、薬機法の改正に向け議論を重ね、2025年2月12日に改正案を閣議決定しました。議論の中心になったのは、薬局における対物業務の効率化や、デジタル技術を活用した一般用医薬品(市販薬)の販売、また品質の確保や安全対策の強化など、いずれも人口構造の変化や医療需要の拡大などにより、制度の見直しが必要とされている項目です。
今回の改正は、薬局・薬剤師にとって大きな変革を迫られる可能性があるものとして、大きな注目を浴びています。

薬局・薬剤師の業務はどう変わるのか

厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会が2025年1月に発表した「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」では、「医薬品等の品質確保及び安全対策の強化」「品質の確保された医療用医薬品等の供給」「ドラッグ・ラグやドラッグ・ロス解消に向けた創薬環境・規制環境の整備」「薬局機能・薬剤師業務のあり方の見直し及び医薬品の適正使用の推進」の4テーマについてまとめられています。

ここでは、薬剤師の業務に大きな影響を与えるとされる項目として、「一般用医薬品のコンビニ販売解禁」「濫用対策を目的とした販売規制」「調剤業務の外部委託」について解説いたします。

コンビニで一般用医薬品の販売が可能に

薬剤師等が常駐しない店舗(コンビニなど)において、その店舗に紐づいた薬局の薬剤師等による遠隔管理の下、一般用医薬品を保管・販売可能とすることが挙げられています(相談応需可能な環境下で購入者へ受け渡すことが必須条件)。
近年のICT化の進展を受け、オンライン上でも対面と同等の情報提供が可能となっていることや、遠隔販売の需要が高まっていることなどが背景にあります。

この改正は、購入者の利便性を向上させるサービスとなりますが、受渡店舗での対応のあり方や、適正かつ安全な医薬品提供のため、薬剤師による管理・監視体制の強化が求められます。
また、デジタルツールやシステムの導入など、薬局はイニシャルコストが発生する可能性があります。制度開始後は、高齢者やデジタルに不慣れな人へのサポートはもちろん、薬剤師自身も限られた期間で操作や手順に慣れなければなりません。さらに、経営層は社内で導入目的やメリットの理解促進を図り、適切な教育やトレーニングを行うことで定着化につなげることが重要です。

オーバードーズ対策により一部の一般用医薬品に販売制限

若年者を中心に風邪薬や咳止めなどによる一般用医薬品の乱用が拡大し、全国で多くの健康被害が報告されていることを踏まえ、「濫用等のおそれのある医薬品」(6種類の成分)に指定されている一般用医薬品に販売制限が設けられます。
また、他の薬局等での購入状況や、名前・年齢、適正な使用のために必要と認められる数量を超えて購入を希望する場合はその理由など、必要事項を確認することが新たに義務付けられます。

濫用等のおそれのある医薬品(次の成分を含有する製剤)
  • エフェドリン
  • コデイン
  • ジヒドロコデイン
  • ブロムワレリル尿素
  • プソイドエフェドリン
  • メチルエフェドリン
改正後の販売ルール
  • 20歳未満への大容量製品または複数個の販売を禁止するとともに、20歳未満への小容量製品の販売または20歳以上への大容量製品もしくは複数個の販売に際しては、対面またはオンラインでの販売を義務付ける。
  • 顧客の手の届かない場所への商品陳列または販売もしくは情報提供を行う場所に継続的に専門家を配置し購入する医薬品と購入者の状況を適切に確認できる必要な体制を整備できる場合には、専門家が配置される当該場所から目の届く範囲(当該場所から7メートル以内(指定第2類医薬品と同じ))への陳列により対応する。

この制度改正の背景には、全国で毎年約1万人が、オーバードーズにより救急搬送をされている実態や搬送人数が年々増加していること、中でも20代という若年層の割合が圧倒的に高いことなどがあります。

一般用医薬品の過量摂取事例について(日本中毒情報センターへの相談事例)

厚生労働省「一般用医薬品の濫用に対する取組について」

また、一般用医薬品の販売における実態調査では、濫用のおそれのある医薬品において、理由を聞かずに若年者に複数個を販売する、また他店での購入状況を聞かずに大容量製品を販売するなど、不適切な方法で販売しているケースが約20%もあることが分かり、対策の強化が求められていることも背景のひとつとなっています。
今後は販売方法をより厳格化し、薬局・薬剤師にゲートキーパーとしての役割が求められていると考えられます。

薬局における調剤業務の一部を外部へ委託

薬剤師の対物業務の効率化を図り、服薬指導や健康相談などを含めた対人業務へ注力できるよう、薬局における調剤業務の一部を外部委託することが方針として決まりました。

既に、国家戦略特区において実証事業が開始されていますが、その状況も踏まえ、業務を委託する薬局と、受託する薬局とにおいて必要な基準を設定し、それぞれの義務や責任を整理、必要な見直しを行っていく必要があります。

委託の対象となる業務
  • 当面の間、一包化(直ちに必要とするもの、散剤の一包化を除く)
委託先
  • 薬局とする(同一法人内に限定しない)
  • 当面の間、同一の第三次医療圏内とする
安全性
  • 医療安全が確保されるよう、EUのADDガイドライン(※)などを参考に基準を設ける
  • 手順書の整備や教育訓練、適切な情報連携体制の構築・維持、委託元の指示の記録、委託先での作業が確認できる記録の保存、委託元の薬局による最終監査、国や自治体による委託先の監視指導、委託元の薬局による調剤設計の段階での患者への聞き取り等が必要

※Automated Dose Dispensing: Guidelines on best practice for the ADD process, and care safety of patients(2017欧州評議会)

調剤業務の一部を外部へ委託する動きは、2021年の規制改革推進委員会で、薬局における対人業務の強化及び対物業務の効率化について取り上げられたことをきっかけに、議論が開始されました。さらには新型コロナウィルス感染症の流行により、非対面で行えるオンライン服薬指導の需要が本格的に高まり、対面による患者とのコミュニケーションが大幅に減少していることで、患者の状況をより深く把握し、コミュニケーションの質を高めるために時間をかける必要が出てきたと言えます。
このような背景を受け、タスクシェアすることで対人業務の充実化を図る狙いがあります。
今後は、教育プログラムによる社内外の研修や、委託先とのスムーズな連携を図るためのシステムの導入などが必要となります。
また実装後には、委託先への説明や調剤業務のオーダー内容の作成、委託元による管理やチェック体制など、新たな業務が発生することも予想されます。

知識やスキル向上のために

2025年の薬機法改正は、医薬品業界にとってまた薬局・薬剤師の業務に大きな変革を迫る内容となります。購入者にとって利便性が高くなる一方、安全かつ適正な医薬品提供のため、薬局・薬剤師の責任の重要性を明確化した、規制緩和と強化の両面を持つ法制化であると言えます。

この改正により、デジタル技術の活用の幅が広がり、またこれまで以上に高度なコミュニケーションスキルやより高い専門性が必要となります。

薬剤師の役割が大きく変わろうとしている今、知識やスキル向上のため、積極的に情報収集する姿勢を持ち、継続的な自己研鑽に努めることが不可欠でしょう。

(2025年5月掲載)
編集:株式会社 医学アカデミー

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