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選定療養費が救急搬送にも?
薬剤師トレンドBOX#45
近年、救急車の出動回数が増加傾向にあります。同時に救急医療現場の人手不足、重症者の救助の遅延などさまざまな問題が指摘されています。これらの課題の解決策の1つとして今回は、薬剤師も知っておきたい救急搬送における選定療養費の取り扱いについてご紹介します。
増加する救急車の出動件数
総務省の調査によると、2023年の救急車の出動件数は763万7,967件、搬送人員数は663万9,959人で、過去最多を記録しました。特に高齢者(65歳以上)の搬送人員数は409万2,759人で、全体の60%以上を占めています。
重症者の治療が間に合わなくなる危険性も
2023年の救急車による搬送人員数の内訳を傷病程度別にみると、入院を必要としない軽症者が約320万人で、前年と比べて約30万人増加しています。
2023年 搬送人員(人) | 2022年 搬送人員(人) | |
---|---|---|
死亡 | 87,429 | 91,364 |
重症(長期入院) | 478,740 | 480,951 |
中等症(入院診療) | 2,851,385 | 2,702,797 |
軽症(外来診療) | 3,214,831 | 2,940,106 |
その他 | 7,574 | 2,065 |
合計 | 6,639,959 | 6,217,283 |
総務省「令和5年中の救急出動件数等(速報値)」の公表 表9 傷病程度別の搬送人員対前年比を参考に作成
搬送人員数が増加したことにより、救助の遅延も問題の1つとして指摘されています。2022年中の救急車による現場到着所要時間(入電から現場に到着するまでに要した時間)は全国平均で約10.3分でした。これは前年よりも約1分遅い結果であり(前年約 9.4 分)、救急車が現場に到着するのに今まで以上に時間がかかっていることを意味します。同時に病院収容所要時間(入電から医師引継ぎまでに要した時間)も約47.2分(前年約42.8分)と前年より伸びており、一刻を争う救急医療の現場においては非常に大きな問題であると考えられます。
救急医療現場における医療従事者の人員不足
救急医療の現場では人員不足も問題となっています。特に医師の働き方改革による労働時間の短縮は、2024年問題ともよばれ、医療現場の人員不足に拍車をかけることが懸念されています。2019年に行われた厚生労働省の医師の勤務実態調査によると、病院で常勤する医師の約37.8%が年間960時間を超える時間外・休日労働を行っており、そのうち全体の約8.5%が年間1,920時間を超える長時間労働をしていることがわかっています。救急車の出動件数の増加は、医師の業務が増えるだけでなく、過労による判断能力の低下や医療事故などの大きな問題にもつながりかねません。
救急搬送に選定療養費が必要!?
救急搬送における選定療養費の取り扱いについて
医療機関にはそれぞれの機能や役割があり、適切な機能分担を行うために、初診時に紹介状なしで大きな病院を受診した場合には、選定療養費がかかるようになっています。救急の患者さんについては、基本的には対象外になりますが、三重県松阪市の三基幹病院(松阪中央総合病院・済生会松阪総合病院・松阪市民病院)では2024年6月1日から、救急車で搬送された患者さんの一部について、選定療養費が必要となりました。
選定療養費の取り扱い
- ・三基幹病院について、初診時に紹介状なしで受診した場合
- ・原則として救急の患者は対象外
- ・救急車利用の場合も、基本的に入院に至らなかった軽症の方は選定療養費の対象
※ただし、個別の病院・医師が患者の状況もふまえ判断するもので、一律に行うものではない
なお、以下のような場合は選定療養費の対象外となります。
選定療養費の対象外となる場合
- ・紹介状持参の方
- ・入院に至った方
- ・公費負担医療制度の対象の方
- ・災害により被害を受けた方
- ・労働災害、公務災害、交通事故
- ・医師の判断による
この取り組みは、病院と地域の医院・診療所等の機能分担の推進と、地域の救急医療を守ることを目的としています。
救急車を呼ぶか迷ったときは?
三重県松阪市では軽症者が適切な医療を受けられるための対応として、病気などさまざまな相談の対応を行う「救急相談ダイヤル24」や、三重県の運営する、診察可能な医療機関を電話で案内する「三重県救急医療情報センター」などが利用できます。
三重県松阪市のような取り組みのない地域では、「救急安心センター事業(♯7119)」を確認してみましょう。これは24時間365日、医師や看護師、トレーニングを受けた相談員などが電話口で相談に対応するサービスで、緊急性の高い症状なのかの判断やアドバイスを受けることができます。緊急性が高いと判断された場合には救急車の出動が行われ、緊急性が高くないと判断された場合は受診可能な医療機関や受診のタイミングについてアドバイスを受けることができます。
救急安心センター事業のサービスは多くの地域で利用が可能ですが、一部サービスを実施していない自治体もあるため注意が必要です。自分の住んでいる地域や勤務先がこのようなサービスを行っている地域かどうかは総務省のホームページを確認してみてください。
救急搬送における選定療養費の導入がもたらす影響と今後の課題
救急搬送における選定療養費の導入によって、利用者は救急車を呼ぶ判断を慎重に行うようになるでしょう。これにより、軽症者や緊急性の低いケースでの救急車の利用が減少し、結果的に重症の患者さんが迅速に救急対応を受けられるようになり、医療機関の機能分担にもつながります。一方で、必要な場面でも救急車の利用を躊躇してしまうケースが出てくる可能性もあります。このため、取り組みを進める際には、対象外となるケースの明確化や緊急時における支援策の整備が必要になってくると考えられます。
救急医療の現場を守るためには、医療機関の機能分担の推進や、緊急時の判断をサポートするサービスの普及が大きな鍵となります。薬局でも、救急安心センター事業などの相談サービスや医療機関の利用方法についての啓発活動を強化することにより、住民が適切に救急サービスを利用できる環境を整える必要があるでしょう。
(2024年9月掲載)
編集:株式会社 医学アカデミー