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学んでおきたい「アナフィラキシー」

薬剤師トレンドBOX#44

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だんだんと夏が近づき、周囲の緑も青々としてきました。レジャーやスポーツを楽しむ人も増える季節ですが、花粉症をはじめとしたアレルギー疾患に悩む人も多いのではないでしょうか。今回は、アレルギー疾患から引き起こされる重篤な過敏反応である、アナフィラキシーについてご紹介します。

何らかのアレルギー疾患をもつ日本人は、2人に1人!

アレルギー疾患とは、アレルゲンに起因する免疫反応により、粘膜や皮膚の慢性的な炎症を起こす疾患のことで、気管支喘息やアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎、花粉症、食物アレルギーなどが挙げられます。日本人の2人に1人はアレルギー疾患を有しているといわれており、年々患者数は増加傾向にあります。

アレルギー疾患には急激な症状の悪化を繰り返し生じさせるものがあり、患者さんの生活の質が著しく損なわれる場合が多いとされています。また、一度発症すると複数のアレルギー疾患を合併したり、新たなアレルギー疾患を発症したりする(アレルギーマーチ)可能性があり、症状の治療に加えて、発症予防も必要であると考えられています。

命にかかわるアナフィラキシー

食物、ハチ毒、医薬品などにより、過敏反応が複数の臓器に同時にあるいは急激に出現することをアナフィラキシーといい、血圧や意識レベルの低下、脱力などが出現するような状態をアナフィラキシーショックとよびます。アナフィラキシーの発現から悪化までのスピードは非常に速く、重症化することで死に至る場合があります。

中でも、医薬品によるものは年間で 1,000 例以上発生していると推測され、頻度の多い医薬品には、造影剤、血液製剤、抗菌薬、抗がん剤、解熱消炎鎮痛薬などがあります。また、患者さんに食物アレルギーがある場合には、卵由来の成分を含む医薬品や、牛乳由来蛋白を含む医薬品などでも起こることがあります。

アナフィラキシーの症状

発症機序は主として即時型のI 型アレルギーに分類されます。医薬品の投与開始直後から症状が現れます。注射薬では症状発現が特に速く、内服薬ではやや遅れる傾向にあるといわれています。また、これまで、安全に使用できた医薬品でアナフィラキシーを発現する場合と、初回投与時に生じる場合があります。

アナフィラキシーが発現する臓器はさまざまで、通常、2 つ以上の臓器に症状が発現します。発赤・じんま疹・掻痒感等の皮膚症状、のどのかゆみ等の粘膜症状、腹痛や吐き気等の消化器症状、くしゃみや咳・息苦しさ等の呼吸器症状などのほか、ショック症状が出現してくることもあります。

アナフィラキシーのポイント
● アレルゲンに曝露された直後から、症状が現れ始める

症状や発現からの経過は患者さんによって異なり、同一の患者さんでも発現ごとに差異があります。数分以内にショック症状が現れ死亡する症例も報告されています。

● アナフィラキシー発現時は、体位変換を契機に急変することがある

アナフィラキシーと疑われる症状があった場合には、座る、立つといった動作を行わないようにします。基本的には仰向けで、呼吸困難時は座位、妊娠時は左下で半仰向け、意識消失時は回復体位をとってもらうようにします。

※回復体位(側臥位)
横向きに寝かせ、下あごを前に出して気道を確保し、 両肘を曲げ上側の手の甲を顔の下に入れ上側の膝を約 90 度(直角)に曲げて後ろに倒れないようにする体位 1)

● 必ずしも軽度から重度に進行するわけではない

原因が食物か医薬品か、医薬品の種類によっても各臓器症状の出方は異なります。

● 二相性反応が起きることもある

治療を受けるなどして最初のアナフィラキシー症状が改善した後に、再度アナフィラキシーの症状が出現する二相性反応が起きることもあります。二相性反応の約半数は、最初のアナフィラキシー反応の後、6~12時間以内に出現します。また、初期対応の遅れで二相性反応が起こりやすくなるといわれています。

アナフィラキシーへの対応

「息苦しさ」などの呼吸器症状や「顔色が悪い」などのショック症状が発現している場合は、一刻も早い治療が必要です。自己注射薬を処方されている患者さんはただちに注射を行い、すぐに救急車を要請するようにしましょう。なるべくその場で安静にし、可能であれば内服薬などの服用も検討します。

小児は、大人のように症状が明確でない場合や、症状を正確に自分で訴えることができないため、特に注意が必要です。何となく不機嫌、元気がない、寝てしまうなどということがアナフィラキシーの初期症状であることもあります。服薬指導の際には保護者へ説明できるとよいでしょう。

いざというときのために、薬局でできること

薬剤師には、アナフィラキシーの発現を予防するとともに、万が一発現した場合には迅速な対応を行うことが求められます。あらゆる医薬品がアナフィラキシーの誘因となり得ることや、これまで安全に使用できた医薬品でも、突然症状が発現する可能性があることを念頭におき、普段の服薬指導から、情報の収集やフォローを行っておくことが大切です。

薬歴へ記載しておきたいこと
● アレルギー疾患の既往歴

食品や医薬品、虫、造影剤、ラテックスなどのアレルギー、気管支喘息

● 家族のアレルギー疾患歴
● アナフィラキシーの既往有無
● アレルギー疾患への家庭での対応状況

掃除や食事などについて、どの程度注意しているか

● アレルギー疾患の治療状況の確認

アレルギー専門医への受診の有無、減感作療法実施の有無、自己注射薬の処方の有無

アナフィラキシーの既往がある患者さんへは、原因となる医薬品や食物を摂取しないように説明が必要です。また、アレルギーの可能性の高い医薬品を使用する患者さんへは、特に注意して服薬指導を行う必要があります。注意したい症状について説明しておくほか、緊急の場合には救急車を呼ぶように伝えます。
アナフィラキシーには速やかな初期対応が不可欠です。いざというときに焦らず対応できるよう、事前にスタッフ間で話し合っておいたり、定期的に緊急時対応のトレーニングを行ったり、目につく場所に緊急時の対応マニュアルなどを掲示しておいたりするとよいでしょう。

(2024年5月掲載)
編集:株式会社 医学アカデミー

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