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全国均等な医療への道
~薬剤師偏在問題の解消に向けて~
薬剤師トレンドBOX#42
少子高齢化の進行により、人口減少地域が今後増加していくことが予測されています。この状況下では、人口構造の変化や地域の実情に応じた医薬品提供体制の確保が求められます。一方で、薬剤師の従事先に業態や地域の偏在があることも指摘されています。今回は薬剤師の偏在問題とその対策について紹介します。
薬剤師の偏在問題とは?
薬剤師の偏在問題には、地域による薬剤師の数のばらつきが生じる地域偏在と、病院と薬局間で生じる業態偏在があります。
地域偏在
薬剤師の地域偏在とは、一部の地域に薬剤師が集中し、他の地域では薬剤師の数が不足しているといった、地域差がある状態です。特に、都市部には薬剤師が多く、地方や過疎地では少なくなる傾向があります。薬剤師の地域偏在は、医療アクセスの不均衡を招き、特に地方で深刻な問題を引き起こしています。都市部では薬剤師が過剰に集中する一方で、地方では薬剤師が不足し、高齢者や慢性疾患患者さんが適切な薬物療法を受けられない状況がうまれる可能性があります。また、薬剤師不足は医薬品の適切な使用や薬学的管理の質の低下を招き、患者さんの健康リスクを高める危険性もあります。
業態偏在
薬剤師の業態偏在とは、病院や薬局といった薬剤師の従事先の業態によって偏在がある状態です。厚生労働省の薬剤師人員数の充足状況に関するアンケートにおいて、病院では「必要な人数より不足している」との回答が50.5%と最も多く、人員数が足りていない病院が多いことがうかがえます。また20~40代の薬剤師の給与水準は病院より薬局の方が高いため、病院における若手薬剤師の確保・定着が難しいという問題も抱えています。病院における薬剤師不足は入院患者さんのケアの質の低下や医療スタッフ間の連携不足による医療ミスを引き起こすリスクを高めます。この病院・薬局間での業態偏在は、薬剤師の働き方や専門性の発揮にも影響を与え、最終的には患者さんの健康にも影響する可能性があります。
薬剤師確保ガイドラインの作成
これらの薬剤師の偏在問題に対処するため、厚生労働省は「薬剤師確保計画ガイドライン」を策定しました。この計画は2024年度から薬剤師確保計画に基づく薬剤師偏在対策を開始し、2036年までの12年間で薬剤師偏在の是正を達成することを長期的な目標としています。
ガイドラインの方針
厚生労働省は都道府県・二次医療圏を薬剤師偏在指標という数値を用いて調査しました。そのうえで薬剤師多数区域・都道府県、薬剤師少数でも多数でもない区域・都道府県、薬剤師少数区域・都道府県の3つの区分に分け、それぞれに対して施策を行うこととしています。薬剤師偏在是正の進め方としては、原則3年ごとに目標設定を行い、薬剤師少数区域・都道府県を少なくしていくことを基本としています。
薬剤師確保の施策
厚生労働省は薬剤師確保ガイドラインに則り、薬剤師少数区域に所在する病院・薬局に対して施策を推進することとしています。現在掲げている施策には以下のものがあります。
- ①地域医療介護総合確保基金の活用
- ②病院・薬局における薬剤師の採用にかかるウェブサイト、就職説明会等を通じた情報提供の支援
- ③地域出身薬剤師や地域で修学する薬学生へのアプローチ
- ④キャリアプラン実現・やりがいを感じられる業務実現のための支援
- ⑤給与制度見直しの促進
- ⑥病院や薬局における働き方の見直しの支援
- ⑦潜在薬剤師の復帰支援
- ⑧病院・薬局における業務効率化の支援
- ⑨薬学部における地域枠の設定
地域偏在に対しては、「地域出身薬剤師や地域で修学する薬学生へのアプローチ」や「薬学部における地域枠の設定」が地域の薬剤師不足解消への貢献に期待されています。特に「地域出身薬剤師や地域で修学する薬学生へのアプローチ」では、現在の勤務地や将来的に希望している勤務地として、出生地が最も高い割合で挙げられているという統計もあり、取り組みが有用であると考えられます。
また業態偏在に対しては、「キャリアプラン実現・やりがいを感じられる業務実現のための支援」や「給与制度見直しの促進」が今後の病院の薬剤師不足解消への貢献に期待が寄せられています。若い薬剤師の給与水準が薬局よりも病院の方が低いという問題の解決や、病院での業務におけるキャリアプランを明確にすることが今後の病院の薬剤師不足解消に有用であると考えられます。
日本全国での医療サービス均等化への取り組み
薬剤師確保計画ガイドラインは、日本全国での医療サービス均等化の実現に向けた大きな一歩です。地域や業態の偏在を是正し、どの医療機関でも最適な医療の提供を目指すこの取り組みは、都道府県や医療機関が一丸となって進めるべき多角的な施策を含んでいます。これまで「対物」から「対人」への注目が集まっていましたが、今後は「対人」からさらに一歩踏み込んだ「地域」への医療の重要性が一層高まるでしょう。
(2024年2月掲載)
編集:株式会社 医学アカデミー