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夏がくる前に押さえておきたい食中毒対策
薬剤師トレンドBOX#38
春から夏へ移り変わる時期となり、湿度の高くなる梅雨や暑い夏がまもなくやってきます。気温や湿度が高くなると増えてくるのが、食中毒。 今回は、梅雨や夏がくる前に知っておきたい食中毒の原因や分類、薬局対応で気をつけるべきことをご紹介します。
食中毒の原因のほとんどは「細菌」と「ウイルス」
食中毒とは、細菌やウイルス、有毒な物質がついた食べ物を食べることによって中毒症状を引き起こす疾患のことです。 食中毒の代表的な症状は、腹痛、下痢、嘔吐といった胃腸障害ですが、発熱や倦怠感など風邪のような症状を起こすこともあります。 食中毒は年間を通じて発生しますが、原因によって発生しやすい時期が異なります。 細菌によるものは6月~8月、ウイルスによるものは11月~3月に多く発生します。
主な食中毒の分類
細菌性 食中毒 |
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ウイルス性 食中毒 |
ノロウイルス、A型肝炎ウイルス など | ||||
寄生虫 食中毒 |
アニサキス、クドア など | ||||
化学物質による食中毒 | 水銀、ヒ素、ヒスタミン など | ||||
自然毒による食中毒 |
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食中毒を引き起こす原因のほとんどは細菌とウイルスで、その他の原因として寄生虫や化学物質、自然毒などがあげられます。
細菌性食中毒の分類
細菌性食中毒の主な原因は、腸管出血性大腸菌やカンピロバクター、サルモネラ属菌などです。 約20℃ほどから活発に増殖しはじめ、35~40℃ほどで増殖のスピードが最も速くなります。 また、細菌の多くは湿気を好むため、気温や湿度が高くなる梅雨の時期には、細菌による食中毒が増えるといわれています。
● 腸管出血性大腸菌
牛や豚などの家畜の腸内にいる病原大腸菌の1つで、O157がよく知られています。 感染すると腸管内で毒性の強い「ベロ毒素」を出し、腹痛や水のような下痢、出血性の下痢などを引き起こします。 また、溶血性尿毒症や脳症等を併発し、死に至ることもあります。
<主な感染経路>
動物の糞便、二次汚染された肉、野菜など
● カンピロバクター
国内で発生している細菌性食中毒の中でも発生件数が多い感染源です。 カンピロバクターに感染すると、下痢、腹痛、発熱、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などの症状が生じますが、多くの場合は1週間ほどで治癒します。 またまれに、カンピロバクターに感染した数週間後に、力の入りにくさやしびれなどの末梢神経障害が起こるギラン・バレー症候群を発症する例が報告されています。
<主な感染経路>
加熱不十分な肉(特に鶏肉)や汚染された飲料水など
● サルモネラ属菌
菌を摂取してから半日から2日後ほどで症状が現れ、激しい胃腸炎、嘔吐、腹痛、下痢などの症状を引き起こします。 最もよくみられる症状は胃腸炎ですが、より重篤な感染症である腸チフスを引き起こすこともあるため注意が必要です。
<主な感染経路>
牛、豚、鶏などの肉、卵など
● 黄色ブドウ球菌
家畜や鳥類のほか、人の皮膚や体内、傷口などにも存在します。 摂取後1~6時間程度と潜伏期間が短いことが特徴で、悪心、嘔吐、下痢などの症状を引き起こします。 通常、中毒症状は半日~数日以内に収まります。
<主な感染経路>
おにぎり等の穀類加工品、弁当、調理パンなど
ウイルス性食中毒の主な原因
細菌性食中毒の主な原因であるノロウイルスは、調理者から食品を介して感染する場合が多いといわれています。 また、二枚貝から感染することもあります。大規模化することも多く、年間の食中毒患者数の4割以上を占めています。
● ノロウイルス
一年を通して感染が報告されていますが、冬季に多く発生する傾向があります。 感染することで嘔吐、下痢、腹痛などを引き起こします。 ノロウイルスの殺菌にはアルコール消毒はあまり効果がないため、予防には丁寧な手洗いが重要です。
<主な感染経路>
カキなどの二枚貝のほか、排泄物や手指を介してのヒト-ヒト感染
寄生虫食中毒の主な原因
適切な処理をされていない魚介類などを生で食べることにより感染します。 レバーや馬刺し、ヒラメなどの生食により、これまで日本にはいないと考えられていた寄生虫に感染した例や、 これまで食中毒の原因として知られていなかった寄生虫が食中毒の原因である可能性が高いと判明した例などが報告されています。
● アニサキス
寄生虫(線虫)の一種で、魚介類に寄生しています。 魚介類の摂食時にアニサキス幼虫が口から入り、胃壁や腸壁に刺入することで激しい腹痛や悪心、嘔吐の症状を引き起こします。 アニサキス幼虫の大きさは2~3cm程度あるため、目視で見つけて除去することが可能です。
<主な感染経路>
サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどの魚介類
食中毒の治療と対応時の注意
食事後数時間してから、腹痛や下痢、嘔吐といった胃腸障害や発熱、倦怠感などの症状が出た場合は食中毒が疑われます。
症状が軽度である場合には制吐剤や整腸剤などを用いた対症療法を行いながら、十分な休養をとり、回復を待つことが一般的です。 ただし、下痢症状を抑えるために下痢止めが使われることはあまりありません。 なぜなら、腸内の運動が抑制されることによって、原因を引き起こしている細菌や毒素などの排出を遅らせてしまうからです。 このことを頭においておくとよいでしょう。
食中毒への対応時の注意点
下痢や嘔吐などが続いている場合は、脱水症状に注意が必要です。 また、激しい腹痛や発熱、嘔吐などを伴う下痢の場合、赤痢やコレラなどの感染症も疑われるため、早急に医師の診断を促すことが大切です。
受診勧奨の目安
- ・血便が出る
- ・嘔吐が酷く水も飲めない
- ・めまいがする
- ・意識がもうろうとする
- ・尿量が少ない
- ・激しい腹痛がある
- ・高熱がある
たとえ症状が軽かったとしても、妊婦や子ども、高齢者、基礎疾患のある方などは重症化するケースがあるため、受診を勧めましょう。
食中毒が増えてくる季節に向けて
厚生労働省では、家庭での細菌性食中毒予防の3原則として、細菌を食べ物に「つけない」、
食べ物に付着した細菌を「増やさない」、食べ物や調理器具に付着した細菌を「やっつける」をあげています。
また、ホームページでは食中毒予防のポイントをまとめたパンフレットも配布されています。
気温や湿度が高くなってくると増えてくる食中毒ですが、「調理や食事の前にはよく手洗いをする」、
「食材はすぐに冷蔵庫に入れる」、「よく加熱する」など、少しの注意が予防につながります。
病院や薬局で患者さんとお話をするときには、一言アドバイスを添えてみてはいかがでしょうか。
(2023年5月掲載)
編集:学校法人 医学アカデミー