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春はうつ病になりやすい?
薬剤師ができるサポート
薬剤師トレンドBOX#36
日本では、100人に約6人が生涯のうちに経験するといわれる「うつ病」。 つらい体験や悲しい出来事が原因となるイメージが強いかもしれませんが、進学や就職、引っ越しなど、本来なら嬉しい出来事も発症の誘因となります。 新しいスタートを切る人も多い春に向けて、今回はうつ病の基礎知識と、薬剤師ができるサポートをご紹介します。
100人に約6人がかかる「うつ病」
一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状とともに、 眠れない、食欲がない、疲れやすいといった身体症状が現れ、ふだんの生活に大きく影響が出ている場合、うつ病の可能性があります。
日本では、100人に約6人が生涯のうちにうつ病を経験しているといわれています。 特に女性は妊娠や出産、更年期などのライフステージの変化に伴い、うつ状態やうつ病になりやすいといわれており、 生涯有病率は女性の方が男性よりも1.6倍ほど多いことが知られています。 また、家族を介護する介護者の「介護うつ」も社会問題になっています。
患者さんやそのご家族のサポートにいかせるよう、まずはうつ病の病態や原因、治療法などを深く知ることが大切です。
うつ病と気分障害
うつ病は気分障害の1つで、気分障害にはうつ病の他に双極性障害(躁うつ病)などがあります。 うつ病ではうつ状態だけがみられますが、双極性障害はうつ状態と躁状態(軽躁状態)を繰り返す病気です。 うつ病と双極性障害とでは治療法が大きく異なるため、専門家による鑑別が必要です。
うつ病の原因
発症の原因は正確にはよくわかっていませんが、感情や意欲を司る脳の働きに何らかの不調が生じているものと考えられています。 つらい体験や悲しい出来事だけではなく、結婚や進学、就職、引っ越しなどといった嬉しい出来事の後にも発症することがあります。 なお、体の病気や内科治療薬が原因となってうつ状態が生じることもあるので注意が必要です。
うつ病の主な原因
● 遺伝的素因
● 病前性格
几帳面、責任感が強い、勤勉、良心的 等
● 誘因
病気・別離・失敗などの精神的打撃
引っ越し・昇進などの急激な状況の変化
目標達成などの負担の軽減 等
● 生化学的要因
● 薬剤性
うつ病の症状
うつ状態では、物事の捉え方が否定的になり、自分はダメな人間だと感じ、 いつもなら乗り越えられる問題が実際よりもつらく感じてしまうという悪循環が起き、 イライラしたり、焦ったりする気持ちも出てきます。 さらに重症になると「死んでしまいたいほどのつらい気持ち」が現れることもあります。
うつ病の主な症状
● 精神症状
- ・一日中気分が落ち込んでいる
- ・何をしても楽しめない
- ・自分がダメな人間だと感じる
- ・いつもなら乗り越えられる問題が実際よりもつらく感じる 等
● 身体症状
- ・食欲がない
- ・性欲がない
- ・眠れない、過度に寝てしまう
- ・体がだるい、疲れやすい
- ・動悸
- ・胃の不快感、便秘や下痢
- ・めまい
- ・口が渇く 等
原因と思われる問題を解決しても気分が回復せずに、ふだんの生活に大きな影響が出てしまうことや、 気分が落ち込むような明らかな原因が思い当たらないことも少なくありません。
また、うつ病には自分が感じる気分の変化だけでなく、周囲からみてわかるサインもあります。 下記のような変化に気づいたときや相談があったときには、患者さんやそのご家族はうつ状態に悩んでいるかもしれません。
周囲にもわかるうつ病のサイン
- ・表情が暗い
- ・自分を責めてばかりいる
- ・涙もろくなった
- ・反応が遅い
- ・落ち着かない
- ・飲酒量が増えた
うつ病の対応と治療
治療を行う前に、まずは心身の休養がしっかりとれるような環境を整えることが大切です。 職場や学校から離れて自宅で過ごしたり、場合によっては病院へ入院したりすることにより、大きく症状が軽減することもあります。 精神的ストレスや身体的ストレスから離れた環境で過ごすことは、その後の再発予防にも有効です。
うつ病の治療には、医薬品による治療(薬物療法)と、専門家との対話による治療(精神療法)があります。 また、散歩などの軽い有酸素運動(運動療法)もうつ症状を軽減させることが知られています。
うつ病の主な治療
● 薬物療法
主に使われる治療薬は抗うつ薬で、継続して服用することが大切です。 患者さんが自己判断で薬の量を増減したり中断したりせず、焦らずに服薬を継続できるよう支援しましょう。 また、うつ病ではさまざまな身体の症状も現れるため、その症状に応じた治療薬を併用することもあります。
● 精神療法
精神療法には、支持的精神療法とよばれる基本的な治療法に加えて、認知行動療法や対人関係療法などのより専門的な治療法があります。
● その他の治療法
運動療法、高照度光療法、修正型電気けいれん療法、経頭蓋磁気刺激法などが用いられる場合もあります。
うつ病のサインに気づいたら
誰もがなり得る「うつ病」。日々の服薬指導を通して、患者さんやそのご家族の様子が「いつもと違う」と感じたら、 最近大きな環境の変化がなかったか、十分な休息がとれているかなどのお話を聞いてみましょう。 その際、どんな内容でも否定や安易な励ましは避け、可能であれば気分が落ち込む原因から少し距離を置いて、十分な休息をとるようにお話しします。
さらに、医療機関の受診や専門的な相談が必要そうだと感じたら、主治医に相談するほか、精神科や心療内科・神経内科などの受診、 保健所や精神保健福祉センターの相談窓口などの利用についても伝えられるとよいでしょう。
うつ病のサインに気づいたときの相談窓口の例
窓口(施設) | 相談の方法 | 対応 |
---|---|---|
保健所 | 電話、面接 | 保健師、医師、精神保健福祉士 等 |
保健センター | 電話、来所 | 保健師 等 |
精神保健福祉センター | 電話、面接(要予約) | 医師、看護師、保健師、精神保健福祉士、公認心理師、作業療法士 等 |
夜間・休日などの精神科救急医療相談 | 電話 | 相談員 等 |
また、夜間や休日でかかりつけの医療機関が利用できない場合や、かかりつけの医療機関がない場合などでも、 緊急を要する場合には各都道府県や市町村が設置している精神科救急医療相談窓口で相談ができます。 精神科救急医療相談窓口では、緊急性を判断し、必要であれば受診できる医療機関の紹介や、 管轄の警察署・消防署・保健所などへの情報共有も行っています。 それぞれの地域で受けられるサポートや支援を事前に把握しておけると安心です。
薬剤師の気づきが鍵に
病院や薬局で働いていると、患者さんやそのご家族の小さな変化や違和感に気づくことがありますよね。 周囲からみると嬉しいはずの出来事も、実は「うつ病」の原因になっているかもしれません。 小さな変化や違和感を見逃さないことが、患者さんやそのご家族の気持ちを軽くする手助けになりますよ。
(2023年2月掲載)
編集:学校法人 医学アカデミー