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薬局でできる「未病対策」

薬剤師トレンドBOX#29

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高齢化の進展とともに「未病」にあたる方が増える一方で、未病は保険医療でのケアが難しいものとなります。
「未病」という言葉を中国の古典医学書まで遡れば、健康と病気の間に位置する「自覚症状はあるが、明確な疾患と定義できない」 あるいは「自覚症状はないものの、検査値が微妙に正常値を超える」といった状態とされています。
今回は、未病対策の現状とともに、未病の方に対する薬局の関わり方と今後の展望をご紹介します。

アプリによる健康状態の可視化

現在、未病対策に積極的に取り組んでいる神奈川県。同県では「食」、「運動」、「社会参加」の3つから未病改善に取り組んでおり、 その一環として、個人の健康情報等を保存・管理するデータベース「健康情報等プラットフォーム」を構築し、スマートフォンアプリと連動して運営しています。
これは歩数などの計測機能や身長・体重、栄養状態などを記録できるアプリと連動し、経時的な健康状態を確認できます。アプリを継続的に使用することで、未病状態への変化を可視化でき、電子お薬手帳アプリや電子母子手帳アプリとの連携も可能です。
これにより個々人の健康情報の一元化も実現できます。

未病状態の可視化

薬局が未病対策に取り組むための第一歩となるのは、未病状態の把握・可視化です。 前述した「未病」の状態は、疾患と異なり患者さん本人や家族、あるいは医療機関が最新の状態を把握できていないことも少なくないのです。

このような状態に対して、万歩計アプリのデータ、一部の医療機関が実施している各種検査値が印刷された処方箋、患者さん自身がお薬手帳に書き込んだ検査値、薬局内に設置した各種検査機器や併設する検体測定室で得た検査値などは未病状態の把握・可視化に有用です。

未病改善策の準備と多職種連携

未病状態の可視化が実現すれば、次に必要となるのは改善のための方策です。 改善には、生活指導だけで済む場合もあれば、OTC、健康食品、栄養補助食品、介護用品などが必要になる場合もあるでしょう。 これらの改善に資する選択肢を可能な限り薬局内に取り揃えておくことが重要です。

一方で未病状態がより進行した場合には適切な受診勧奨などが必要になります。 その時に備えて日頃から近隣の医療機関との連携を深めておくことが重要です。
また、医療機関との連携では、一人ひとりが抱える未病状態の多様さが課題となることも想定されるため、 診療科の網羅性にも気を配りましょう。多職種連携の構築には、地域の多職種が集う場などに参加して顔の見える関係を構築しておくことも必要です。

未病対策薬局の今後の展望

現状、かかりつけ薬局をベースにした「健康サポート薬局」が未病対策で求められる機能をもつ薬局にあてはまるでしょう。 現行の健康サポート薬局制度は、厚生労働省が定めた基準をクリアするには相当の労力が必要なことに加え、 調剤報酬などの裏付けがないため、都道府県への届出状況は低調です。
しかし、今後かかりつけ薬局が浸透したときには、健康サポート機能の有無により患者さんが薬局を選択することも考えられます。

後期高齢者への薬局の介入

2021年6月、一定の所得がある75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が可決されました。
これにより2022年後半から、年収200万円以上の後期高齢者の医療費窓口負担が現行の1割から2割に引き上げられます。 この件について高齢者の生活環境改善に取り組む「日本高齢期運動連絡会」が緊急アンケートを行ったところ、 回答した1,455人の後期高齢者のうち約3割が引き上げ後に何らかの形で受診を控えると回答しています。

今後も社会保障関係費のひっ迫が続き、国民への経済的負担が重くなるにつれ、 医療機関へのアクセスが難しくなる患者さんに薬局がどのようなフォローをできるかが課題となってきます。
今後、未病対策は薬局が積極的に介入すべき新たな市場となるのではないでしょうか。

(2021年11月掲載)
編集:学校法人 医学アカデミー

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