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薬局が支援するセルフメディケーション
「不眠」対応のエッセンス
薬剤師トレンドBOX#25
処方箋の有無にかかわらず、多岐にわたって薬局が受ける相談内容。
よくある「悩み」から、今回は、「不眠」に関わる基本知識と処方がない場合のセルフメディケーション支援に役立つポイントをご紹介します。
※ 本記事は下記を出典として作成しています。
e-ヘルスネット(厚生労働省)
現代人にとってあたりまえになりつつある「不眠」
不眠の疾患としての診断基準は、主に4つのタイプに分けられる(図1)睡眠問題が1か月以上続き、日中に倦怠感や意欲低下といった不調が続く場合とされます。
「不眠症」の定義
- ・入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害などの睡眠問題が1か月以上続く
- ・日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲低下などの不調が出現
不眠症は決して特殊な病気ではありません。不眠症は「国民病」ともいわれるように、日本人の5人に1人が「睡眠で休養がとれていない」「何らかの不眠がある」と回答する調査結果があります。加齢とともに中途覚醒や早朝覚醒といった症状は増加傾向にあり、60歳以上では約3人に1人が睡眠問題で悩んでいるという結果も出ています。
「若い頃はもっと眠れたのに」という悩み相談には、加齢に伴う自然な現象であることもご説明するとよいでしょう。
POINT睡眠時間の考え方
不眠を課題として対応するかどうかは、「日中に不調が出現するかどうか」で決まります。日本人の睡眠時間は平均すると約7時間ですが、その実態は3時間の方もいらっしゃれば10時間の方もいらっしゃいます。睡眠時間や目覚める回数にこだわりすぎないことが大事です。
不眠の原因
不眠の原因は多岐にわたり、対処法も異なります。
ストレスは不眠に大きく関わります。生真面目という日本人の気質も不眠症のなりやすさに影響を与えているのかもしれません。
不眠症の原因の中でも睡眠時無呼吸症候群・レストレスレッグス症候群・周期性四肢運動障害・うつ病による不眠や過眠などは専門施設での検査と診断が必要です。それぞれの治療法があり、通常の睡眠薬では治りませんので、こうした睡眠障害が疑われる場合には、日本睡眠学会の睡眠医療認定医や精神科医へのご相談をおすすめします。
不眠相談へのアドバイス
相談者がそれぞれにとってのよい方法を見つけられるよう、薬局でアドバイスできる内容をご紹介します。
- 1. 就寝・起床時間を一定にする
- 睡眠覚醒は体内時計で調整されています。平日・週末にかかわらず同じ時刻に起床・就床する習慣を身につけることが大事です。
- 2. 睡眠時間にこだわらない
- 睡眠時間には個人差があるため、睡眠時間の目標は立てないほうがよいでしょう。寝床にいる時間が長すぎると熟眠感が減るため、どうしても眠気がないときは思い切って起床します。日中眠気があるときは午後3時前までに30分以内の昼寝をとると効果的です。
- 3. 太陽の光を浴びる
- 太陽光など強い光には体内時計を調整する働きがあり、光を浴びた14時間以降に眠気が生じてきます。早朝光を浴びると、夜の寝つきが速くなり、朝早く起きられるようになります。
- 4. 適度の運動
- 厳しい運動は刺激となりかえって逆効果になることがありますが、軽く汗ばむ程度を目安とした、負担にならない程度の有酸素運動を長時間継続することは効果的です。
- 5. 自身に合ったストレス解消
- 音楽・読書・スポーツ・旅行など、自分に合った趣味で気分転換をはかり、ストレスをためないことが大切です。
- 6. 寝る前のリラックス
- ぬるめのお風呂/好きな音楽や読書などで睡眠前に副交感神経を活発にさせ、リラックスするのがコツです。なお、就寝前の飲酒は深い睡眠が減り、早朝覚醒が増えます。アルコールを不眠対処に取り入れていらっしゃる方には、別の方法を一緒に考えるのもよいでしょう。
- 7. 就寝環境の整備
- 眠りやすいベッド・布団・枕・照明などは自分に合ったものを選びましょう。温度や湿度も気にかけてもよいでしょう。適温は20℃前後で、湿度は40~70%くらいに保つのがよいといわれています。
POINT不眠恐怖の悪循環に陥らない
不眠の課題について大切になるのは、眠れないことへの恐怖がさらなる不眠につながり、早く眠らなければという気持ちがさらなる不眠につながる悪循環を避けることです。「一過性で終わるはずだった不眠が慢性化して不眠症になる」背景にはこうした不眠恐怖による悪循環があります。眠れないのに我慢して無理に寝床にいると、不眠が悪化することがわかっています。このような悩みに対しては、「いつか眠くなるからそれまで起きていよう」といった心持ちくらいがちょうどよいといったアドバイスもよいでしょう。
具体的には、ベッドで休む時間を決めておいて眠れなければベッドから出る、日中はなるべく活動的に過ごすことが大切です。
【役立つ情報例】
- * アテネ不眠尺度
- 世界保健機関(WHO)が中心になったプロジェクトで作成された不眠症の判定方法。薬局でのアセスメントに活用し、多職種に情報共有するときに有効的です。
- * 睡眠健康大学
- 患者さんの自己啓発などに活用できるウェブサイト。
滋賀医科大学睡眠学講座の監修の元、(社)日本睡眠教育機構が運営するサービスです。
(2021年4月掲載)
編集:学校法人 医学アカデミー