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「新しい生活様式」で必要な感染対策ワンポイント
―薬剤師として、患者さんのために伝えるべきこと―
薬剤師トレンドBOX#23
新型コロナウイルス感染拡大を機に、私たちの生活はこれまで以上に感染対策が重視される「新しい生活様式」を迎えています。一方で誤った知識によるトラブルも見られるようになりました。
今回は、公衆衛生を司る薬剤師として必須の感染対策の基本を振り返るとともに、使用頻度が高いアルコールをはじめとする「消毒」の観点から、患者さんのために伝えたいワンポイントアドバイスをご紹介します。
感染対策の基本「手指衛生」をもう一度見直す
感染症の有無に限らず、医療者にとって基本の感染対策は標準予防策と、感染経路別予防策です。
必須項目としてはマスク、手指衛生、咳エチケット、環境対策などがあげられますが、今回は厚生労働省が公表している一般の方に向けた「感染対策の基本」にも含まれる手指衛生についてもう一度見直します。
オフィスやスーパーマーケットなどの入り口に設置された手指消毒用アルコールは、昨今見慣れた光景になりつつあります。しかし、その意義を理解した上で正しい使用方法に基づき実施しなければ十分な対策にはなりません。
WHOによる「医療における手指衛生ガイドライン2009」において、日常的手指衛生における擦式アルコール製剤の使用は「好ましい」とされています。一方で同時に、「手が目で見て汚れている、あるいは血液や体液がついているとき、芽胞形成菌に曝露した可能性が著しく高いとき、あるいはトイレを使用した後は、石けんと流水で手を洗う必要がある」とされています。
石けんと流水による手洗いと擦式アルコール消毒の使い分けについて、医療者ではない一般の方に説明する際は、目に見える汚染がないときは擦式アルコール消毒、目に見える汚れがあったり、血液や嘔吐物にふれたとき、トイレに行った後は石けんと流水による手洗いの実施を勧めるとよいでしょう。
薬剤師として患者さんのために伝えたい
「石けんと流水による手洗いの基本」
私たちの皮膚には常在菌が存在しています。トラブルの原因となる悪玉常在菌もいますが、起炎菌などに対して拮抗的に働き増殖を防ぐなど、感染防御の働きをもつ善玉常在菌もいることが知られています。また、手荒れはかえって感染リスクを上げてしまいます。薬局では、石けんと流水による手洗いは実施が必要な場面と実施の際のポイントをおさえ、「しすぎない」ことも患者さんに伝えることが大切です。
基本① 手洗いを実施する場面
食事の前やトイレの後、外出先からの帰宅時など
基本② 手洗い実施のポイント
- ● しっかりと石けんを泡立てる
泡立てることで手のしわなど細部までせっけん液がいきわたる - ● 洗う時間は「30秒」を目安にする
細菌の除去が適切に行われるひとつの目安が30秒
ワンポイントアドバイス
例えば「どんぐりころころ」や「ぞうさん」の歌を2回歌うと30秒といわれます。子どもに指導する際など、その子が好きな歌で30秒の目安を作るのもよいでしょう。
なお、手洗いを実施した後に手を拭くタオルも注意が必要です。洗面所とトイレで使用されている手拭きタオルの取り換え頻度に関する実態調査があり、洗面所では約5割、トイレでは約8割が「3日以上」同じタオルを使い続けているという結果が出ています。
洗面所で3日間使用したタオルを1日室温で放置し、いったん乾燥させたタオルから細菌が検出されました。またそのタオルで手洗い後の手を拭いたところ、タオルから細菌が移っていることもわかりました。
このことから、いったん湿ったタオルは長時間放置すると細菌が増殖し、乾燥させた後でも細菌が残存している可能性があることが示唆されます。一見汚れていないように見えても、タオルは「湿ったら取り換える」習慣をつけるよう手洗い指導の際には併せて伝えるとよいでしょう。
薬剤師として患者さんのために伝えたい
擦式手指消毒薬の違いと消毒時のポイント
多くの場面で使用されている擦式アルコール手指消毒薬。市販品の主成分は大きく2つあります。
エタノール
一般的にいわれる「アルコール消毒」は、エタノールを指します。速乾性で使い勝手がよく、ほとんどの微生物に効果があるので多くの場面で使用されています。
アルコール過敏症の方には使用できず、成人よりも皮膚の弱い乳幼児にもあまり向いていません。しかしながら刺激性・乾燥性を抑え、ヒアルロン酸などの保湿効果のある成分を配合したジェル製品も増えてきました。
ワンポイントアドバイス
アルコール過敏症や乳幼児には、ベンザルコニウム製品やジェル製品をお勧めしましょう。
ベンザルコニウム
一般的な細菌に効果がある一方で、ウイルスには効果が薄いともいわれています。エタノールに比べて速乾性が低いため、よく擦り込む必要があります。しかしながらアルコール過敏症でも使用できるという大きなメリットがあります。
使用時のポイント
・15~20秒乾くまで手指の摩擦を繰り返す
・爪部分の消毒は特に注意する
爪の下部の皮膚との隙間には多数の菌が存在しています。爪に消毒液がかかるように消毒薬を受け、全体に消毒液がいきわたるように擦り込むと消毒の効果が高まるといわれます。
(2020年11月掲載)
編集:学校法人 医学アカデミー