薬剤師トレンドBOX#21
「笑いは人の薬」「笑いは百薬の長」といったことわざがあるように
従来、適度な笑いは心と身体のよい「薬」になるといわれてきました。
実際に近年の研究からは、笑うことによる免疫系への関与などが証明されつつあります。
今回は「笑い」が健康にもたらす効果をご紹介します。
「22時間30分」。この数字は何を表しているでしょうか。
韓国で発刊された『笑いの科学』という書籍で紹介された数字で、人が80年生きると想定した時「笑っている時間」を計算した結果とのことです。一生で笑う時間は1日(24時間)にも満たないことになります。また同書は、子どもは1日平均400回笑うのに対し、50代は20回とも紹介しています。成人が1日に笑う時間は、10分にも満たないのかもしれません。
この、「1日10分の笑い」が難病の克服につながったとされる例があります。アメリカのジャーナリスト/作家であるノーマン・カズンズで、1964年に難病の強直性脊椎炎を発症しました。診察した専門医によると治癒の可能性は0.2%。当時の激しい体痛による苦しみは、書籍『笑いと治癒力』で「椎骨と、関節のほとんど全部がまるでトラックに轢かれている」と表現されています。
有効な治療法が見つからない中、カズンズは、ストレス理論の研究者であるハンス・セリエの「不快な気持ち、マイナスの感情を抱くことは心身ともに悪影響を及ぼす」という言説に基づき「快の気持ち、プラス感情を抱くことが心身にいい影響を与えるのでは」と考え、「笑いの治療」を実践しました。
カズンズは、ネガティブなことを考えないように病院からホテルへと治療の場所を変えました。免疫作用と自己治癒力を高めるために必須ながら体内で生成できないビタミンCを大量に摂取し、ユーモア集を読んだり喜劇映画やコメディ番組を観てゲラゲラと笑う生活を送りました。
痛みのせいで十分に睡眠をとれていませんでしたが、1日10分大笑いする治療を始めると、2時間ぐっすり眠れるようになりました。
その後もカズンズはポジティブさをいっそう意識して治療を続けたところ症状の改善が進み、数か月後には仕事に戻れるようになりました。その後、心筋梗塞も患いましたが「ポジティブな感情」と「笑い」で乗り越えたといいます。2度「奇跡」を起こしたともいえるカズンズは、「心身の再生力を決して過小評価してはいけない」と情報発信を続け、「笑い治療の父」とも呼ばれるようになりました。
日本では1992年に「笑う」ことの効用が報告されました。伊丹仁朗院長(岡山県すばるクリニック)と昇幹夫医師(大阪府「元気で長生き研究所」所長)による共同実験で、健康な11名と通院治療中の8名が「漫才、漫談、喜劇」を観覧した結果、β-エンドルフィン値向上、NK細胞活性化、CD4/CD8比の改善を認めました。
例えばヒトの体内で1日3,000~5,000発生するといわれるがん細胞もNK細胞が日々破壊しており、「NK細胞療法」といった治療も行われています。患者さん本人のNK細胞をいったん体外に取り出し、増殖・活性化してから投与するもので、副作用が少なく、再発・転移がんなどにも有効性が高いという結果も出ています。
NK細胞療法における活性化には時間を要しますが、「笑う」ことでNK細胞を活性化させるには、5分もかかりません。高度な治療はもちろん医療に欠かせません。ただ、日頃から「笑う」ことも一方でまた健康に効果があるともえます。
昨今、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大を受けマスクを着用する必要性がよく指摘されます。しかしながら、日本人にとってのマスクは海外と比較し、すでに以前から身近なアイテムでした。花粉症対策、保湿、口臭対策といった用途も含め頻繁に使われてきたといえます。
日本の日常に溶け込んでいるマスクですが、着用している人に対し「表情がわからない」「話しかけづらい」といった印象をもつという調査結果もあります。一方で医療従事者であればマスクの着用はやむを得えません。ここでは、マスクを着用していても相手に伝わる笑顔のコツをご紹介します。
会話の最後や別れ際にも、目尻を下げた笑顔にするとよい印象になります
表情を意識的に作る機会がないと目の周囲の筋肉が弱りがちです。仕事の合間、夜寝る前、スマートフォンから目を離したついでなどに、小まめにやることができる運動です。
1992年の実験を行った伊丹医師は、「作り笑い」でもNK活性が上昇することも発見。表情だけでも笑顔を続ける大切さが示唆されました。
医療現場は本当に大変で、笑えない状況が多々あります。
ただ、患者さんや一緒に働くスタッフに、マスク越しに伝える笑顔が、自身にとっても相手にとってもよい「くすり」になるかもしれません。
(2020年5月掲載)
編集:学校法人 医学アカデミー