薬剤師トレンドBOX#12
薬局に対し、地域の健康相談拠点としての役割が求められているなか、服薬指導・相談応需時のキーワードのひとつとして、妊婦や授乳中の女性への対応が改めて注目されています。
妊娠・授乳が薬の服用に慎重になるべき状態であることは、一般常識としても広く知られていますが、薬物療法の専門家である薬剤師がリスクの確実な回避に努めなくてはならないのは言うまでもありません。近年は、薬に不安や疑問を募らせることで別の問題を生じてしまいかねない母親の微妙な心理や、妊婦はもちろん、妊娠を希望する女性に寄り添った対応にも気を配る必要があります。
2016年秋に一般社団法人くすりの適正使用協議会(RAD-AR)が妊娠希望者および5年以内に出産・授乳した女性300人に実施した調査では、3人に1人(30%強)が『自分が妊娠していることに気付かずに薬を飲んで不安になった』経験を持つほか、3人に2人(70%弱)が『妊娠・授乳期間中に自己判断で薬を飲むことを我慢した』といった実態が浮き彫りにされています。
この調査からは、妊娠・授乳中の服薬に対して警戒感を抱き、リスクについては認識しながらも、正しい知識や情報が充分に得られているわけではない女性の姿がうかがえます。例えば極端なケースで、妊娠に気付かず薬を飲んだことに不安を抱えてしまい、『赤ちゃんへの影響が怖くて妊娠を諦める』といったような判断も想像されることも踏まえれば、妊娠と服薬の関わりが極めて大切なテーマであることに気付かされます。
「妊娠・授乳期間中に薬を飲むことに抵抗があるか」との設問で、『抵抗がある』という回答は処方薬が約39%だったのに対し、市販薬では約80%と、倍以上に跳ね上がります。医師の診断のもとに処方される処方薬は比較的抵抗が低いのですが、自己判断が中心となる市販薬は敬遠される傾向が強く表れています。
実際に妊娠・授乳期間中に「飲むのを我慢した薬と我慢しないで飲んだ薬」を尋ねた設問をみると、市販の風邪薬や鎮痛剤、便秘薬、花粉症薬は『我慢した』との回答が処方薬と比べて高くなっています。つまり、妊娠中や授乳期には体に変調があっても、子どもへの影響を心配してなるべく薬は服用しない、という母親の行動心理が垣間見られます。
服薬に関する疑問・不安の解消行動については、『医師に相談する』が妊娠希望者、出産経験者とも8~9割と最も多くあげています。『薬剤師に相談する』は妊娠希望者では60%、出産経験者で23%と、医師に次ぐ回答が寄せられてはいますが、市販薬が敬遠される傾向から薬局・薬剤師による働きかけが行きわたっていないとも考えられます。
またその一方で、妊娠・授乳と薬についての正しい知識が充分に得られておらず、薬剤による治療の恩恵を自ら遠ざけるような事態も起こりかねないことも危惧されます。この点で、薬局や薬剤師が妊娠希望者や妊婦・授乳期の女性のヘルスケア、生活の向上に関与できる余地を残しているとも言えるでしょう。
調査結果を受けてRAD-ARでは専門医監修のもと、「妊娠前から3週末まではほとんど薬の影響がない」「妊娠2カ月目の4~7週末は最も影響を受ける」といった、薬の服用を避けるべき時期、または風邪や頭痛薬など一時的な服薬に関する情報をまとめ、ホームページにアップしています。また、同じ内容の小冊子を頒布するなど、妊娠・授乳期間中の医薬品の適正な使用知識を広く普及させる取り組みを行っています。
核家族化や女性による社会進出の定着、離婚率の上昇などにより、昔と比べると妊娠や出産、子育て中の女性は孤立しがちです。地域において適切な指導や相談、情報提供を行う専門家の役割が増しています。薬局・薬剤師も安心安全な薬物療法の推進に向けたスキルアップと並行し、これから妊娠を望む女性や妊婦、授乳婦、そして夫婦の相談対応も含めて、従来以上に職務を果たしていくことが期待されています。