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薬局が“患者に寄り添う”ツール拡充に注目

アルコール体質検査サービスきっかけに
期待膨らむ薬局機能拡大

薬剤師トレンドBOX#9

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 2014年から始まった検体測定室に加え、郵送などを介した簡易健診・遺伝子検査キットなども充実してきたことで、薬局が健康管理やヘルスチェックの窓口的な機能を担う展開が急速に進展しつつあります。国からも健康サポート薬局、かかりつけ薬剤師としての役割や職能の発揮が求められるなか、1つのきっかけとして注目されているのが、株式会社NSDが提供する遺伝子情報を活用したアルコール体質検査サービスです。

 これは唾液をもとにアルコール代謝酵素に関わる遺伝子タイプを調べるもので、薬局で検査キットを購入した人が唾液を採取・郵送すると自分のアルコール体質が確認できるとともに、販売時の同意書に基づいて薬局も一定の情報を共有。一度きりの検査に留まらず、適切な飲酒や食生活、疾患のリスクに関する定期的なフォローが受けられるサービスを想定していることがポイントにあげられます。

 アルコール代謝酵素の働きに個人差があるのは周知の通りですが、さらに「アルコール体質を知ることは飲酒だけに限らず、有害なアルデヒドの対処という点では食事指導や薬物治療の推進にも有用です」と指摘するのは、医薬情報研究所エス・アイ・シーの堀美智子さん。堀さんは、以前よりアルコール体質の検査モデルを研究する武庫川女子大学薬学部・木下健司教授の活動に共鳴しており、本サービスの展開にあたり、薬局・薬剤師を交えての事業化に尽力した1人で、そうした観点から日本女性薬局経営者の会の会長として薬局経営という視点で考えると、「薬局の薬剤師が職域や専門家の視点を広げるきっかけになる」と積極的な取組みを呼びかけています。

 例えば調理の仕方でも食べ物におけるアルデヒドの含有量は増します。「貼付剤をはじめアルコールを含む医薬品もあるわけで、その人の体質がわかっていれば『あなたはアルコール代謝酵素が弱いタイプだからこういうリスクがあります』『天ぷらには抗酸化作用のあるレモンを絞ったほうが良いですよ』など、薬局のコミュニケーションで様々な気づきや対応が図られます。常に化学物質から人を見る視点を養えば、その人の健康のために薬剤師として関与できる可能性が広がります」。

 調剤業務ではマスで患者をとらえ、その平均値としての薬物療法のエビデンスが基礎となりますが、堀さんは患者一人ひとりに対する個別化医療の実践を今後の理想に強調。「患者さん個々の体質や生活背景などを踏まえた上で、その人に寄り添った対応を図ることが今後の薬剤師に求められています。飲酒や天ぷらを食べる時の注意など一見たわいもないことに思われるかも知れませんが、そうした個々の対応に踏み込めることこそ地域における薬局本来の機能であり、薬剤師という専門家の視点だと考えます」と、患者を知ることができるツールとしての本検査サービスの意義を語ります。

 また、堀さんはアルコール体質同様に薬物代謝に関わる酵素も人それぞれで違いがあることから、適切な服薬や薬物療法の向上にも活かす方向での本検査サービスの発展に期待を寄せています。「ある咳止め成分は20人に1人程度の割合で遺伝的に処理酵素が欠損しているか、うまく働かずに作用が強くなり、実際の業務で『こんなに効きすぎて良いのか』といった場面に出くわします。今後そういった検査を薬局から発信していくことが次のステップになるでしょう」。

 アルコール体質検査サービスに関しては飲酒での健康被害を防ぐ意味合いが第一にあり、特にまだお酒の飲み方を知らない若い世代への啓発に繋げることが検査モデル開発の背景となっています。「コンパで無理な飲み方をして学生さんが亡くなったりする事故が後を絶ちませんが、親御さんの悲しみはもちろん社会全体にとって大きな損失。化学や健康の専門家として取組むべき問題と思います」。

 これを機に日本女性薬局経営者の会では薬剤師系の組織としては初めて、アルコール健康障害対策基本法推進ネットワークの賛同団体に名を連ねることとなりました。「薬局の薬剤師が処方箋調剤やOTC薬販売だけではなく、地域の人々の健康を守る専門家であることを社会にアピールするためにも、薬局の薬剤師も検査対応や積極的な情報発信を図っていきたいですね」と堀さん。身近な健康支援に向けた積極的な働きかけは、より地域と生活者に踏み込む業務を通じて薬局・薬剤師の社会的な存在感を高めるアクションにも繋がりそうです。

日本女性薬局経営者の会
http://jlipa.biz/
アルコール健康障害対策基本法推進ネットワーク
http://alhonet.jp/

(2016年3月掲載)
編集:薬局新聞社

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