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昭和の薬”も発見・・・!?

実は幅広い問題はらむ残薬問題

薬剤師トレンドBOX#7

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 高齢社会に伴う社会保障費の切迫が一般にも認識され始めてきたことから、そのひとつの象徴として残薬問題が頻繁にマスコミで報じられるようになってきました。年間400億円に達するとも試算される残薬は、特に多くの高齢者にとって目に見える医療の無駄であり、また適切な薬物療法の妨げや医療への潜在的な不安にも繋がるだけに、薬局・薬剤師の役割として日頃の調剤業務で残薬解消へ働きかける動きが活発化しつつあります。

 例えば残薬問題に取組む薬剤師有志がFacebook上に立ち上げたグループ『残薬写真公開場所』では、訪問薬剤管理指導業務での患者宅の光景や薬局に持ち込まれた残薬を各自が撮影し、その写真をソーシャルネットワーク上で共有することによって問題意識を喚起し合っています。各現場で実際に確認された残薬の写真が持つインパクトは抜群。参加する薬剤師は写真から薬剤費を計算して医療コスト上の問題を実感したり、それぞれの残薬の傾向や対策について意見交換したりと有意義に機能させています。

 残薬写真で興味深いのは『薬袋から推測して7年前の薬』『たぶん期限が切れたのは僕が中1の頃』(Facebookに寄せられたコメントより)など、思いもよらないほど古い薬を発見する状況も目立つこと。ひと口に残薬と言っても単に現在の処方薬の飲み残しだけではなく、誤って服用すれば非常に危険な類の薬も数多く存在するという、投薬・服薬をめぐる患者の生活の場の実態を知る意味合いでも効果的な試みになっているようです。

 こうして残薬には患者ごとの理由と背景が横たわっています。勤務薬剤師の立場で『残薬写真公開場所』に参加する田中倫太郎氏は、複数の病医院から同じような処方が出ている状況に気付いたものの、いずれも長く世話になっている医師で言い出せずにいた患者を説得した自身の経験から「残薬が出る理由は患者それぞれ」と強調。よって残薬解消では「単に『飲み残して余った薬はないですか?』と訊ねるのではなく、『1日3回も服用するのは大変ですよね。外出したりして飲み忘れてしまったことはないですか?』などと質問するようにしています」といったように、患者に寄り添って話を聞く姿勢を前提に問題解決を図る心掛けにあるといいます。

 一方で患者の飲み忘れや用法用量の誤りなどは、言うまでもなく別の次元の話となります。同じく参加者の1人である惠谷誠司氏(鹿児島県薬剤師会薬事情報センター勤務)は、「残薬には色々な要因があるかも知れませんが、適切な薬物療法や使用状況を導けていないという見方では『薬剤師が機能していたのだろうか』との疑問が生じてしまいます。何が問題かを明らかにし、薬剤師がもっと積極的に介入しなければ、これまでの薬剤師側の言い分自体を否定しかねない要素もはらんでいるように思います」との懸念を寄せ、残薬の解消という手段が目的になってしまうことを危惧する現場感覚を説明します。

 もっとも、日数調整だけではなく根本的に服用薬を減らすよう医師に提案する職能の発揮を本筋とすれば、現場では「残薬の確認そのものは薬剤師がしなくて良いのではないか」という声も聞かれるようです。そもそも残薬に基づく日数調整では疑義照会の形式を取るため、医師の処方決定後に『この薬が余っているから』との情報をフィードバックすることは業務フロー的に円滑ではないとも言えるところです。

 将来的に事後報告などで薬剤師の現場判断による調整が可能になるような状況が理想ですが、『残薬写真公開場所』に集められる各現場の生々しい残薬の写真は、そうした職能拡大を導くためにも残薬の裏にある患者1人ひとりの問題を掘り起こし、本質的な解決策を探る活動への意欲に訴えかけるだけの迫力を放っています。

(2015年7月掲載)
編集:薬局新聞社

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