薬剤師トレンドBOX#1
先のソチオリンピック・パラリンピックに続き、サッカーのワールドカップも開催される今年。招致成功が国民的盛り上がりを見せた2020年東京五輪も見据え、スポーツの話題が続く状況に応じて業界では“スポーツファーマシスト”への注目が改めて高まっています。
スポーツファーマシストについては日本アンチ・ドーピング機構(JADA)主催/日本薬剤師会協力で、薬剤師免許を有する者を対象に基礎・実務の講習会受講と確認試験を経て認定証を発行する世界的にも珍しい公認制度が2009年から実施されています。公認数は2014年度で5,896人と着実に増加しており、国民体育大会(国体)に参加する都道府県選手団への情報提供をはじめ、競技者・指導者に対する禁止薬物などのアンチドーピング知識の周知や啓発、また学校教育の現場などでの活動も視野に入れられています。
鳴り物入りで始まった制度のスタート後、暫くはその具体的な役割に疑問が寄せられる状況もありましたが、先人の熱心な活動に応じて徐々に理解が広がり、5年目を迎えて本格的に定着へと動き出しつつあります。 直近では、昨年の東京国体に際して東京都薬剤師会が対策特別委員会を立ち上げ、会員内に公認スポーツファーマシストを900人ほど増員させるとともに、薬局・薬店店頭での情報発信や地域医師会・歯科医師会との連携を積極的に行うことを呼びかける展開を図りました。
「JADAのプログラムで競技会場に派遣され、また地域薬剤師会としても地元の国体会場でボランティアを行いましたが、それこそ『この薬を飲んで大丈夫?』という切羽詰まった問い合わせや『自分はドーピングは関係ない』という人など競技者の間でも認識は様々。啓発の重要性を再認識しましたね」と説明するのは、当時に対策委員会委員長を務めた世田谷区「さかうえ薬局」の管理薬剤師・小林百代さん。
そうした経験を踏まえ、スポーツファーマシストとして「今後は小中学校の生徒を対象に、アスリートを目指す早い時期から身近に啓発を図るなど、昨今のくすり教育とも連動した取組みも考えたいです。国体での活動は薬剤師職能の意義を実感する良い機会になりました」と、薬物適正使用・乱用防止運動と密接に関わる新たな、そして薬剤師職能を社会に知らしめる効果的なアプローチとしての手応えを語っています。
例えば近年、東京マラソンを契機としたランナー人口の急増をトピックスに、運動・スポーツがより身近なものとなってきた印象にあります。本格的な競技者に限らず、薬局・薬剤師にとって身近な健康維持への働きかけとしての運動指導や、運動後のケアを含む情報提供なども高齢社会での重要な役割に浮上してきました。そのような切り口でスポーツファーマシストの可能性を考えてみるのも良いかも知れません。
JADAスポーツファーマシスト認定プログラムは年度毎に実施されており、例年4月の募集を経て5~8月頃に基礎講習会、12~1月頃にeラーニングを介した実務講習会を実施。3月の知識到達度確認試験で所定の成績を認めた者に対して4年間有効の認定証が発行されます。なお、認定後も実務講習会は毎年の受講が定められ、認定期間中の3年目もしくは4年目に基礎講習会の受講・確認試験を行う形で認定が更新される運びとなっています。
OTC医薬品やサプリメントの中にもドーピング禁止物質を含有する製品があることを情報提供している
店頭のぼりでも薬剤師への相談をアピールしている
今回お話をうかがった小林百代さん
(2014年5月掲載)
編集:薬局新聞社